7 ページ8
震えた手で玄関のドアを閉めた。
そのまま力なくその場に座り込む。
頭の中に忘れていたはずの記憶が滝のようになだれ込んできて、気持ちが悪い。
赤みがかったあの髪も、子犬のようなあの目も、お菓子のような甘い匂いも、骨ばった手も全部捨てたはずなのに。
フラフラと立ち上がりキッチンに向かう。
コップに水を入れて一気に飲んだ。
溢れ出そうになる気持ちごと、喉の奥へ押し込んだ。
「っ！」
ガチャリと、ドアが開く音が聞こえた。
「.....A？」
「.......し、ま、くん」
合鍵を手に心配そうな顔で近付いてきた志麻くんに、思いきり抱き着いた。
一瞬、驚いたような志麻くんだったけれどすぐに背中に手を回しきつく抱きしめてくれた。
「...坂田と会ったんやな」
坂田、その名前にびくりと肩が震えた。
「ごめんなぁ。俺が誘わなきゃこんなことにならんかったのに」
「...ち、がう。私が気を付けなくちゃいけなかった...ごめんなさい」
「謝んなって...。Aのせいやないよ」
そう言うと志麻くんの両手が私の頬を包み込んだ。
薄い紫の綺麗な目にずるずると過去を引きずる汚い私が映っている。
「思い出しちゃった？」
「...っ、ごめんなさい」
「ええよ。...すぐ忘れさせたるから」
「...ん、」
ゆっくりと近付いてきた唇がちゅっと音を立てて離れていく。
けれどすぐさま降り注いだキスの雨にそっと目を閉じた。
それが合図かのようにゆっくりと倒された体はベッドへと沈んだ。
志麻くんの熱っぽい視線にただ身を委ねるだけ。
しっかりと繋がれた手は最後まで離れなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 408人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆめ(プロフ) - こんにちは。二人の間でグラグラしている夢主と、行動を起こした坂田さんと、不安な志麻さんそれぞれの視点で進むお話がドツボです。まろまゆこさんのペースで応援してます、、！ (2020年1月31日 16時) (
レス) id: 8d18ba62e8 (このIDを非表示/違反報告)
Noel*26 - すげぇ、、、すき(告白) まーしぃとさかたんの汚い一面がまた面白いｗ これからも楽しみにしてます あとこれは完全な個人趣味ですが、こういう必要以上に改行しない作品好きですねぇ (2019年5月26日 15時) (レス) id: 68377bc296 (このIDを非表示/違反報告)
夜浪 紗奈 - 続きがめっちゃ気になる！これからも頑張って下さい！ (2019年5月11日 10時) (レス) id: ed71a26e06 (このIDを非表示/違反報告)
まろまゆこ(プロフ) - 夜浪 紗奈さん» ありがとうございます！ (2019年5月4日 16時) (レス) id: 0a41dd36db (このIDを非表示/違反報告)
夜浪 紗奈 - 想像だったんですか！想像でここまで、面白く書けるなんて…凄いですね！ (2019年5月2日 16時) (レス) id: ed71a26e06 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：まろまゆこ | 作成日時：2019年4月25日 15時
