勿忘草 番外編[コード・ブルー]

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[藍沢side]

波田先生に会った時から、あの人は不思議な人だった。

まだ俺らフェローが1年目の時、

大規模な事故が起き、何人もの医者が現場に送られ、俺もその一人だった。

その現場で、必死に人の命を救おうと処置する親子の姿があった。

的確な処置をしながら、娘に指示するあの人は一段と輝いていた。その娘がまだ高3だと聞いた時には驚いたが。


成田にある救命センターで長くトップに立ち、多くの命を救ってきたあの人から学ぶことは沢山あった。

気がつけば気に入られ、家にもお邪魔するようになった。

母親は脳腫瘍で入院。長女は結婚。今は医者を目指す次女と二人暮らしだとずっと聞かされていた。


何回目かの波田家に呼ばれた時、

なぜ医者になりたい

俺の問いに

お父さんみたいになりたいから

とあいつは答えた。


あいつに出会った時、既に千葉大の医学部に入っていて頭はずば抜けてよかったと思う。


「...ハッ...ッ」

昔のことを考えていると、荒い息遣いに目を開く。

立ち上がり、向かい側の壁に寄せて置いてあるベッドの上で苦しそうに息をする背中をさする。

「...ッ...」

暫くすると落ち着いた寝息を立てる。

頰に流れる涙を軽く拭う。


こいつは悩んでる。

こいつは苦しんでる。


普段、笑顔を作り普通の生活を送っているこいつには何かがある。


自分が殺した。


昨日、そう言いながら魘されていたのを思い出す。

...何かあるのか。


掛け布団をかけ直すと、俺はベッドの上に再び体を沈める。


...気になるのは、何故だろうか。

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