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オペは無事に完了した。縫合は完璧に、後は術後経過を丁寧に診ていくことになるだろう。私は凝った肩を鳴らしながら、母の病室に向かう。
ふとその時、”天野奏”と書かれた病室の前で立ち止まる藍沢先生を見つけた。ここで話しかける理由もないか、と彼の後ろを素通りして数個先の母の病室に入った。
「あら、お仕事は?」
『休憩』
ベッドの横の椅子を取り出して、元気そうな母の横に座る。最近は本当に調子が良いようで、このまま治ってしまうのではないかという錯覚に陥る。それがただ緩和向けの治療に移ったからだということはわかっているが、こう思う親族は多いかもしれない。
それにしても、表情が暗い。
『...なんかあった?』
「なんでもバレちゃうわねぇ、奏ちゃんのことでねえ」
『入院になったみたいだね』
私は先ほど藍沢先生が立ち止まっていた病室を思い浮かべる。母の話によれば、症状は大分悪化しているらしく、早く手術をしなければ手遅れになるかもしれないとのことだった。
『...まあでも、藍沢先生に新海先生もいるし、信じるしかできないね』
私は手を組んだままそう伝えれば、母は小さく笑いながら「そうよね」と言ってくれた。
「そういえば、耕作くんとはどうなの?」
『特に何もないよ?』
女の顔になった母に私は捕まってしまったな、と苦笑いをする。母は「本当にぃ??」と笑顔だった。
「この間、耕作くんが顔出してくれてね。救命に移ったんですって報告に来てくれたのよ」
『...藍沢先生が?』
私は驚いて聞き返してしまった。元々、彼と出会ったのは父経由ではあったが気がつけば母とも仲良くしており、その関係は今でも続いているようだった。
「ええ、だからAはどうしてる?って聞いたら、頑張ってますよ、って嬉しそうに教えてくれたのよ」
『えぇ、変なこと言ってないといいんだけど』
私はその言葉に微笑んだ。彼が嬉しそうにしていたかどうかは分からないが、母だからこそわかったのだろう。だとすればそれはそれで照れ臭いな、と私は頰をかいた。
「照れちゃって!!」
『人のこと弄らないの〜』
だけどこうして母に茶化されるのも、悪くない。
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笹原美桜(プロフ) - ネボーンじゃなくてREBOAじゃないですか?ドラマ沿いだと (2021年9月15日 22時) (レス) id: 9ad5622aaa (このIDを非表示/違反報告)
ゆの(プロフ) - こんにちは、いつも楽しく読まさていただいています。誤字を発見したので、ご報告です。支持→指示だと思います。ご確認ください。 (2018年7月30日 7時) (レス) id: 4d27a7bcab (このIDを非表示/違反報告)
Ray(プロフ) - あおいろさん» 分かりました (2017年8月20日 15時) (レス) id: 3f08d45607 (このIDを非表示/違反報告)
あおいろ(プロフ) - チナキンさん» ありがとうございます!!「」の前に名前を入れればいいのですが、入れていないのでものですみません。説明文で分かりやすいようにかけるようもっと頑張っていきたいと思います! (2017年8月20日 15時) (レス) id: 5cec4d6e77 (このIDを非表示/違反報告)
あおいろ(プロフ) - Rayさん» コメントありがとうございます。残念ながらただいま忙しい状況で、新しい小説を書く事は難しいと思われます。ですが、男主で案もいいと思いますのでかける環境になれば検討して行こうと思います。申し訳ございません。 (2017年8月20日 15時) (レス) id: 5cec4d6e77 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mono | 作成日時:2017年7月27日 0時