6話 ページ7
『これを警察に突き出せば、なんとかなるだろうから。』
轟は資料を一通り読むと、忍に目を向けた。
「………なあ、この依頼主じゃない方の男………。」
『………ああ、その人は、その、私の親代わりみたいなものだ。私は幼い頃に彼に拾われ、育てられた。ｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰけど、この人がやってる事は悪い事だ。今まで私は、彼の………主のしている事を見て見ぬふりをしていた。反抗すれば痛めつけられるから、って。』
「けど今、これを俺に渡したって事は………」
『そう、決心がついたんだ。逃げずに立ち向かう決心ってやつだよ。』
そう言った忍の目には、確かな光が宿っていた。
『とは言っても、決心がついたのは君に会って話してからなんだけど。』
「俺と？」
『ああ。最初は資料を渡すか迷ってたんだ。迷って迷って、そして結局、今までみたいに逃げようとしてた。けど、君のような人を………ヒーローになろうとしてる人を見ていると、どうしても思い出してしまうんだ。…………人を笑顔で助ける、キラキラ輝いている、オールマイトの様なヒーローへの憧れを。』
忍のどこか悲しさを感じさせる笑顔を、轟は黙って見ていた。
確かに忍は今まで誰も殺 しはしなかった。だが忍は、返り血を浴びて帰ってくる主の姿を何度も何度も見てきた。主が誰かの命を奪った事を知って、それでもなお自分が傷つくのが怖くて何も出来なかったのだ。
『ありがとう。ほんの少ししか話していないのに何言ってんだと思うかもしれないが、君のおかげで決心がついた。』
「俺、別にあんたに何かした覚えないけど………。」
『違う………君の存在自体に救われたんだ。私は今まで、君ほど“ヒーロー”に近しい存在に会ったことがなかった。君は、その、エンデヴァーのことをクソ親父と言っていたし、彼の事は嫌いなのかもしれないけれど、それでも、私にはっ、………』
ｰｰｰｰｰｰ羨ましいんだとは、言えなかった。
轟の家庭環境が良くないらしい事を事前に知っていた忍は、口をつぐんで下を向いた。
轟の様な“光側の人間”に会えて、ヒーローへの憧れと何かに立ち向かう勇気を思い出せた事に感謝しているのは事実であるはずなのに、父親がヒーローの彼の環境に嫉妬してしまっている自分に忍は嫌気がさした。
そんな忍の胸中を知ってか知らずか、轟が口を開いた。
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作者名：豆わさび | 作成日時：2022年4月20日 2時
