1話 ページ2
両親の顔は覚えていない。私が物心つく前に、彼らは私を捨てたのだ。
私を拾った“主”は、私に様々な事を教えた。言語、個性の扱い、人体の仕組み、ｰｰｰｰｰｰ人の、殺 し方。
主は、暗殺を専門に請け負う殺 し屋だった。
ｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰ
ザアザアと降り頻る雨の中、1人の男が路地裏を必死に駆けていた。
「っハァ………ハァ、くそっ！あいつ、なんて速さだっ！！」
その男の数メートル後ろに、男を追いかける人影があった。
雨で地面が滑ることに苛立ったのか、人影は舌打ちをして自身の個性を発動した。
『ｰｰｰｰｰｰ風翔［ウィンド・フライ］』
ブオォォォ、という音と共に足に風を纏い、人影は男との距離を瞬時に詰める。
「ヒィ！ま、待って、殺 さないでくれ！！」
逃げられないと判断するや否や、男は人影に命乞いを始めた。しかし人影は一向に殺 すそぶりを見せなかった。
不審に思った男が顔を上げると、目に入ったのは呆れた目をしたまだ中学生ぐらいの少女だった。
人影ｰｰｰｰｰｰ忍はため息をついて、座り込む男の目線に合わせるためにしゃがみ、男に向かって口を開いた。
『人の話は最後まで聞くものだ。いいか、確かに私は君を殺 しにきたと言った。しかしそれは、“表面上は”の話だ。』
「………へっ？」
『確かに私は君を始末するように言われている。………けど、私は 殺しなどしたくない。』
目を伏せる彼女に、男の方も次第に冷静さを取り戻した。
「けど、俺を逃したりなんかしたら、あんたがヤバいんじゃ………」
『ああ。だから、君には顔も名前も戸籍も、全て変えてもらう必要がある。生きていると主にバレれば、君はまた大勢に命を狙われてしまうだろうから………。』
言いにくそうにする忍に、男は慌てて言った。
「俺、あんたの言う通りにするよ。確かに俺っていう存在が消えるのはちょい寂しいけどさ、命には変えられねえし、それに、俺を助けようとしてくれたあんたに迷惑はかけたくねえ！」
『！………ありがとう。』
「礼を言うのはこっちの方さ。で、俺はどうすればいいんだ？」
忍はポケットから紙とペンを取り出し、サラサラっと住所を書いて男に手渡した。
『この住所に行ってくれ。ここには私に協力してくれてるある人がいるんだ。そいつの個性で顔はすぐ変えられるし、戸籍も手配してくれる。私のことを言えば入れてくれる筈だ。』
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作者名：豆わさび | 作成日時：2022年4月20日 2時
