8 -A- ページ15
あの日。
あの時、俺たちは決別した。
俺の前に立ちはだかった彼の
悲しげな、意志の強そうな顔も。
そんな彼に向かって、俺は
ナイフを向けたことも、全部
鮮明に覚えている。
…そして、今。
大野と二宮が去った部屋に
残されたのは、俺と潤だけ。
顔を逸らした。
俺を真っすぐに見つめている
潤の、ダークブラウンの瞳を見つめれば
ずっと押さえ付けてきた、
何かが、こぼれ落ちてしまいそうだから。
｢…兄貴｣
震える声が、舞った。
一歩だけ、潤が俺に近づく。
その名前のように、瞳を潤ませて
彼は、俺との距離を詰めた。
…堪え切れず、嗚咽が漏れる。
激しい罪悪感と哀しみが
俺の心に染み付いていて。
全身から不意に力が抜けて
地面に崩れ落ちた俺を
潤は力強い腕で、しっかりと抱きしめた。
｢兄貴…
…会いたかった｣
優しい、低い声が俺を充たす。
哀しみに塗り固められた
心を溶かし、解いていく。
暗く垂れ込めた雲の間から、
一筋の、光明が差し込んだようだった。
…氷を溶かす、太陽の光。
潤の声は、まさにそれだった。
｢潤…っ｣
弟の力強い腕に抱かれ、
俺は、堪えられぬ嗚咽を吐き出す。
ようやく、瞳から何かが零れ落ちた。
限りなく透明なそれが
ゆっくりと、俺の頬を伝い、落ちていく。
潤は、何も言わなかった。
俺を咎めもせず、ただ
ゆっくりと、その大きな掌で
俺の背中を、撫でてくれている。
｢…潤、ねぇ、潤｣
声を上げれば、彼は俺から
少し離れて、ふっと笑う。
…息を呑んだのは、俺だった。
潤のダークブラウンの瞳にも、
いつの間にか、涙が浮かんでいた…。
｢兄貴…もういいよ｣
今にも涙を零しそうな
ダークブラウンの瞳が、すっと細まる。
ふるふると小刻みに震える
長い睫毛も、心なしか濡れていた。
｢もういいから…兄貴｣
優しい声で、眼差しで、彼は笑う。
瞳に浮かぶ光は、哀しみでなく
深い喜びの色に、染め上がっていた。
ラッキーアイテム
革ベルト
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 11人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
大宮いぶき - 永久さん» 永久様、指摘ありがとうございます！訂正しましたっ(^-^; 打ち間違いでしたね…(汗) これからも宜しくお願いします♪ (2013年2月25日 20時) (携帯から) (
レス) id: 53d0366c4b (このIDを非表示/違反報告)
永久 - こんにちは。ﾊﾟｰﾄ更新おめでとうございます。毎回胸を高鳴らせながら読んでいます。一つ質問ですが､兄弟関係が以前と逆転してるような…？M氏はA氏の弟なのでは？私の読解力が乏しくて間違いならすみませんm(_ _)m
解答いただけたら幸いです。 (2013年2月25日 19時) (携帯から) (レス) id: be02bbf0b7 (このIDを非表示/違反報告)
大宮いぶき - usamiyaさん» usamiyaさん♪ありがとうございます(^^)ここから、物語が大きく動きます！五人もどんどん絡まっていきますよ〜（・ω・）大宮、どう動くんでしょう？お楽しみにしつつも、これからも宜しくお願いします(^^) (2013年2月24日 21時) (携帯から) (レス) id: 53d0366c4b (このIDを非表示/違反報告)
usamiya(プロフ) - わー♪遂に絡まり合ってきたゾ(笑)パート更新お疲れさまです(^^)どんどん明かされる過去に､胸がドキドキ｡そしてNさんカッコいい……Oさんとの対峙､どこか切ないですね｡大変だと思いますが､頑張ってください(^^) (2013年2月24日 18時) (レス) id: 84d03e7a62 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：大宮いぶき
| 作成日時：2013年2月24日 9時
