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「なにしとんの。」
不意に声をかけられ、驚いた先にいたのは
「!?…柊和。」
「なに、今なんか隠した。」
「そんな…なんでもない。気にしないで。
それより柊和、女の部屋に入ってくるのに、黙ってとはどうなのかしら。」
「え…」
ニコニコしてたのに途端に、表情が消えてこちらを見た柊和。
「俺、声掛けたで?いつもみたいに入るで。って」
「え、そうなの…ごめん考え事してたら…」
そうしたらこちらに寄ってきた柊和。
「俺より考え事が大事やったってこと、か。」
間近でそんな事言われると、ちょっと圧を感じる。
今まで意識した事は無かったが、柊和だって、男だ。
私が媚び売ってお金もらってる人たちと同じ男の人。
「ごめん、なさい。そんなつもりやなかった、んやけどね。」
思わず彼の方を見れなくて、俯いたままそう言っても、俯いた視界の中に柊和の着物が見えた。
つまりそれほど近い距離にいる。
そしてそれがより近づいて、すぐそこで柊和の息遣いを感じるようになった時、
「ん??着物??」
私のそばからぱっと離れた。
「へ??」
何をされるのか、かなり身構えていた私は思わず拍子抜けしておかしな声が出る。
柊和の方を見て、彼の手の中にあるものを見ると、
「ちょっと柊和!」
「ぱっと見、友禅染の上品。庶民の普段着ってわけではないよな…」
「そんなんまでわかるの?」
「俺を誰やと思てんねん。使いっ走りでも、着物扱こうてる店のもんやで。」
そう言って、着物をすばやくかつ綺麗に畳みながら
「昨日の男の忘れもん?」
だなんて聞く。
「ううん。ちょっとね…。」
「へぇ。男の着物なんて、持ってて何になるんだか。」
と、畳み終わった柊和の手が止まる。
それも明らかにおかしい。
「…どうしたの?」
「いや、…
これ、さ…」
そう、私の顔を見て言ったあと、ハッとしたように目を逸らした柊和は
「裾、ほつれてるし俺直して来たるわ。」
「え、いいってそんなの」
「いいからいいから。遠慮すんなよ」
って、柊和に押し込まれ、
「また来るわ」なんて、嵐のように帰って行った。
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作者名:ゆう | 作成日時:2017年9月6日 19時