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8つになったばかりの頃、父親が消えた。
理由はわからない。
けど、おそらく私たち家族は捨てられたんだと思う。
母は、それまでも充分働いていたのに、それ以上働くようになった。
事実、私は母が寝ているところを見たことはない。
2つ年上の兄は、大好きだった勉強をやめ、毎日毎日畑を耕すようになった。
「お前らは気にすんな。」
真っ黒に焼けた肌で、そう言っていたけど、そんなの無理だった。
そんな頃、里に明らかに里のものではない服装の者が訪れた。
そして、私は売られた。
それがどこへかなんて、わざわざ言う必要はない。
こちらから望んだわけではなかったけど、要はタイミングだったんだと思う。
父親が消えて、お金が必要な時にお金を用意してくれるっていう人が来て、何人もいるうちの子どもの1人と交換だなんて、出来すぎたくらいいい話。
後で知ったことだけど、私は幸運な方だ。
ここへ売られてきた他の子の話を聞くと、ひどい話ばかりだったから。
売られる日の前の晩、母が寝ている私を見て泣いてくれた。
自分のやりたいことを諦めてしまった兄でさえ、「俺が何とかするから、行かんでもええ!」私の隣に立った男の人の襟元を掴んでくれた。
それだけで、十分だった。
ただ、心残りがあるとすれば、…
『せいちゃん!ほんま?』
あの里での事はほとんど忘れてしまった。
思い出すたび、泣いていたら、ここでの生活はやっていけなかったから。
ここに来て、たくさんの男の人と出会っては別れて、でもまた来てもらうために頑張って名前を覚えて。
彼の、せーちゃんの名前も顔もわからない。
だけど、『せいちゃん』という名前と彼と交わした一緒になるという約束だけは断片的に覚えている。
それがたまに顔を出しては、懐かしい気持ちや、あとは彼の隣にいるであろうほかの人への嫉妬も伴う。
「なにを考えてる?」
「…いえ、ちょっと。」
「ちょっと?」
「こんなん言わなあかんやなんて恥ずかしい…
どうやったら、旦那様が私のこと好きになってくれるかて。
私はこんなに思ってるのに。」
昨日、柊和が持ってきてくれた袷が肩からすべり落ちたのを感じながら、私がここへ来たのは必然だったと事実を正当化してた。
案外、私はこういうことが得意みたいだから。
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作者名:ゆう | 作成日時:2017年9月6日 19時