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「A、ちょっとええか？」
朝、お客様を見送ってもう１度寝ようとした時に、楼主に呼ばれる。
なんとなくなんの事で呼ばれるか見当はついてるんだけど…。
「最近、よおあんたの部屋に男が出入りしとるらしいな。」
「…はい。」
「案外あっさり認めるんや。」
「えぇ、別に隠すことでもありませんので。」
その時、楼主の眉がぴくっと上がったのが見え、私は言葉を続ける。
「彼はお医者様の見習いです。見習いとはいえ、ただでそのような方に診ていただけるのは、大変感謝しております。」
「へぇ、医者ね…」
「えぇ。先日も姉さんのひとりが病に倒れはったけど、早く気づいておれば治ったかもしれへんって聞きました。」
「まあ、そういうことなら認めるしかないなぁ…」
「ありがとうござい」
「けど、それ以上の感情、持ったらおしまいやで。」
そう、言われた。
たったそれだけの言葉なのに、私はこの人にはなにもかも見透かされてるような気がして、「はい。」と必死に平静を装って答えるのが精一杯だった。
せーちゃんへのこの気持ちは、絶対に報われてはならないものだ。
それはこの世界に入って過ごしてきてよくわかってたはずだった。
１度この世界に入ったものは、この世界でしか生きていけない。
例えなんかやなくて、ほんとのこと。
どこへ行っても、ここにいたというレッテルを貼られ、とてもやないけど同じ人やという扱いをしてはくれない。
かと言って、ここに戻って来るのも惨め。
かつては慕ってくれてた者たちも、哀れやという目でしか見てくれへんから。
なのに、なんでせーちゃんに気づいてほしいだなんて思ってしまったんだろう。
なんで、誰かに必要としてほしいやなんて思ってしまったんやろう。
そんなこと思った時点で、ここでは負けなのに。
廉…
と無意識に口が動く。
廉だけは、なにがあっても私のこと見捨てへんような気がする。
昨日の福本さんの言葉も相まって。
だから、廉…
とここまで考えて、バカらしくなる。
廉は今日祝言をあげる。
それにあの人は私を見捨てへん代わりに、私を自由にはさせへん、ここから出してやるつもりはないのやから。
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作者名：ゆう
| 作成日時：2017年9月6日 19時
