１７ ページ17
「廉…さんのことですか？」
そう声が震えるのを感じながら発すると、彼は笑う。
「無理にそんな呼び方せんでも。私相手なんですから、気なんて使わないで結構です。」
驚いた、この人も笑うんだ…。
それに、笑うと意外と幼く見える。
廉より歳上だと思っていたけど、もしかしたらそんなことないのかもしれない。
「いえ、大切なお客様ですから。」
「ほんまにお世話になっとるようで。
でもきっとあの人の事ですから、何も言ってないと思いまして。」
「はい？」
確かに最近の廉は少し変だったかもしれない。
よく笑うのは変わらないけど、時々どこを見ているのかわからないような遠い目で私を見ていることがあった。
「吉岡は、３日後、祝言をあげます。」
「は…？」
「相手は、同じ商人の娘。」
それは、
「…私はもう用済みだってことですか。」
前にもよくあった。
絶対口外するなと、大金を積まれたことも。
「いえ、その逆です。」
「逆？」
この人も同じことかと思ったのに、思ってもみなかったことを言われて、思わず声が上ずる。
「確かに、吉岡は自分から、今回の祝言あげたる、そう言いました。
けど、実際彼はうまいこと理由を作っては、まだ相手には会っておりません。」
「え…」
「３日後に迫ってんのに。」
そう苦笑いしながら、告げた福本さん。
「わかってますよね、あの人は好きで一緒になるわけやないこと。
やから、これからもここには来ると思います。」
「はい…。」
「言い方が悪かったですね、これからもやなくて、これからはもっと、ですね。」
驚いて、彼の顔を見ると、先ほどまでの苦笑いの表情なんてどこにもなくて、真剣そのもの、そんな顔を私をじっと見ていて思わず背筋が伸びる。
「あの人にとって、Aさん、あなたは特別です。」
「私のような者が言うなんて、許されへんことかも知れませんが、どうかその事、忘れへんといてください。」
そう、頭を下げた福本さん。
「…頭、上げてください。
廉は、愛されてますね…。」
「それは、あなたの方が…」
「え？」
どういう意味か…そう思い、彼の目を見ようとしても、目線は合わなくて。
「いえ、これは気にしないでください。」
それだけ告げると、これ以上の長居は…と、帰っていってしまった。
もしかしたら、彼が私の前に現れるのはもう２度とないのかもしれない。
そう思うと、さっきの事が気になってしょうがなくなった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 150人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆう
| 作成日時：2017年9月6日 19時
