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「せーちゃん、」
なんて、呼んでしまう。
「…はい。どうしました？」
拒否することなく答えてくれた彼に嬉しくなった。
けど、答えてくれるまでの間は、なんだろう。
あの一瞬の間に、彼は…
「名前、呼び捨てでいいですよ。」
柊和もそうですから。と、付け加える。
でもほんまは、
「そうします。なら、…A。」
『A。』
はるか昔に、せーちゃんに言われた私の名前と見事にリンクして
ドクンと胸が高なった。
「どうかした？…A？」
でもほんまは、こうやって名前呼んでもらうことで、この言葉にはできない喜びを与えてもらって。
「ううん、なんもない。…せーちゃん。」
それに、名前を呼ぶことで、私のこと思い出してくれへんかなって、ずるいことばっか考えてた。
「Aさーん、…あれ、吉岡さん」
そんなうめの声が外から聞こえてきたと思ったら、吉岡、って
驚いて、晴太郎さんの顔を見ると、かなり深刻そうな顔をしていて…
でも、私の顔を見て笑いかけてくれた。
もしかして、同じように顔をこわばらせた私のこと、心配してくれた？
そんな優しいとこも変わらないせーちゃん。
「Aさん、そろそろ。」
そう言って入ってきたうめと入れ替わるように、
「ほな、また。」
そう言って一緒に出ていったせーちゃん。
そして恐らく部屋の外にいたのは廉だと、どうやって機嫌をとろうかと考えていたのに入ってきたのは、
「え、」
「吉岡がお世話になっております。」
「廉…、さんは…？」
「吉岡は今日はおりません。」
「福本、さん。」
「お見知りおき、ありがとうございます。」
吉岡の屋敷に仕えている、福本さんは、時々廉が帰るときに迎えに来ることがある。
けど、ここに来たことは…ましてやひとりでなんて…
「今日は折り入って話したいことが。
吉岡の許可は得ずに来たことですので、内密にお願いします。」
そんなこと言われたら、いやでもいい話ではないって、わかってしまった。
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作者名：ゆう
| 作成日時：2017年9月6日 19時
