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せい、たろう…？
「せい、ちゃん？」
なぜこんな事が口から出てきたのかもわからない。
気づいたら口から零れていた。
それくらい、その人は私の記憶の中のせーちゃんに、とてつもなく似ていた。
「ごめんなさい。何言ってるんやろ私」
「せーちゃん、」
「え、？」
「って、呼ばれてたことあります。なんでわかったんですか？」
なんて、目を細めて見つめてきて。
あぁ、せーちゃんや。
あの時からずっと私の記憶の中にいたせーちゃんやって。
だから言ってしまった。
こんな思いしてるのは私だけやないってそう思って。
「あのっ、私らはじめまして、やないですよね。」
「…」
「私の事、覚えて、おられませんか…？」
「すんまへん。記憶に、ないです。」
なのに、目の前の彼は浮かばていた笑みをしまって、そう言いずらそうに発した。
「そんなはずはっ
…いえ、そう、でしたか…失礼いたしました。」
正直、ここまではっきり否定されて上手く返せる言葉なんてなくて…。
けれど私の本能的な部分は、この人が『せーちゃん』に間違えないと言っていて。
きっとなにかある、そんな気がしたから、私はそれ以上深い問いただすことは出来なかった。
「あの、それで柊和は？」
「あぁ、今日はあいつに頼まれて来たんです。」
そうだったとばかりに本題に戻った彼。
に、穴が開きそうなくらい見つめられて、息が止まりそう。
「Aさん、今は具合悪くはないですか？」
「…え？」
「あんまりよくない時期があったんやないです？」
「なんで、それを…？」
「柊和はあなたの事、えらい心配みたいで。なんでもすぐ溜め込んでしまうところがあるからって。」
「柊和が…？」
「ええ。俺はそういうとこ気付けへんからって代わりに俺に見てほしいって。」
これまでも季節の変わり目以外によく顔を出してくれてたのは、
「私が心配…？」
「みたいです。せやから、時々来ますんで。勉強中や言うても一応は医者ですから、包み隠さず報告して下さいね。」
隠しても見抜く自信ありますから
そう念を押した、せーちゃん。
これは、運命だ。
どうしても忘れることが出来なかったせーちゃんが花まつりで心奪われた彼で。
そのせーちゃんが今私の目の前にいて。
それに、これからもたびたび会いに来てくれると言うのだから。
私はあの頃ぶりに、運命だなんて形のない言葉を信じてみる気になった。
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作者名：ゆう
| 作成日時：2017年9月6日 19時
