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「お目覚めですか？
おはようございます、Aさん。」
「…おはよう。今日はだいぶあったかい。」
「そうですね。もうすぐ衣替えの季節ですから、春なんですね。」
日がすっかり上がりきった未の刻を少しすぎた頃、人より遅れて起きる。
※未の刻…午後２時
今日は久しぶりに変な夢をみた。
ここに来た頃は毎日のようにみてたものも、慣れというのは恐ろしいことでほとんど思い出さなくなった。
ただ、やはりこの季節になると思い出してしまう。
「昨晩、吉岡の旦那とは何を話されていたんです？
今朝帰られる時、楽しそうでしたけど。」
「…なんやったか、確か家業が自分に合わないとか…？
思い出せないくらいやから大したことやないよ。」
そう言いながら、風呂へ行く準備をする。
「わたしは好きです、吉岡の旦那。」
禿のうめが、そう言った。
※禿(かむろ)…見習いの童女。
「そう？」
「他の旦那さんたちと比べて、姉さんだけやなくてわたしら禿にも気回してくれて優しいし。あと男前やから。」
「ふふ。最後が１番重要なんやろ？男前ってとこが。」
１２、３の歳のこの子らにもわかるほどの、綺麗な顔立ちをしてる廉は、この街では知らない人はいない。
「今度はいつみえるんですかね、吉岡の旦那さん。」
「また、２週間後くらいやないかしら。
今度みえたら、うめが旦那のこと好きって言うてましたって言っとくね。」
「そんなぁ〜！
Aさん、恥ずかしいからやめて下さい！」
「吉岡の旦那、若い子好きやから喜ぶよきっと。」
そんなことを言いながら、風呂に入って上がると、そろそろ食事の時間。
昼見世に出ていた者たちが戻ってきて、早めの夕食。
ここからは時間との勝負で、先ほどまでの雑談などしてる暇がない。
うめもバタバタと動いている。
外で鐘が６つなり、酉の刻になったところで、楼主の声がかかり、夜見世が始まる。
※酉の刻…午後６時
ちゃんと考えてみると、里で暮らしていた時間よりも、こっちに来てからの方が長い私は、もうすっかりこちらの世界しか知らない人同然だった。
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作者名：ゆう
| 作成日時：2017年9月6日 19時
