愛は愛憎の愛−3 ページ6
「あ〜あ、疲れた! ……1時間も経ってる。どっからどう見ても完璧な首吊り死体だっただろうが、さっさとしろよな〜」
悪態を吐きながら大きく伸びをする男。チラリと腕時計に目を遣り、財布の中を確認すると、シブヤの中でもより一層ギラギラと輝くエリアにくるりと向きを変え、そして迷いなく歩き出した。
ピンクのネオンサインやくるんくるんに巻かれた装飾文字が使われた看板が、道の左右にズラリと並ぶ。ここはネオ・シブヤ一の歓楽街と呼ばれる場所であり、シブヤに住む男女が日々の疲れを癒しに、または3大欲求のうちの1つを発散しに来る場所である。第二の歌舞伎町とも呼ばれるここはキャバクラやホストなどの風俗店はもちろん、パチンコ店や居酒屋、漫画喫茶などが立ち並び、「眠らない街」と呼ばれるシブヤの中でも一際輝く場所である。
男はその中から一店のキャバクラへ足を運んだ。周りの様子から彼はこの店の常連らしく、店内にいた男性店員からすぐに声が掛かる。
「やあキールさん! 新しく出来た奥さんには、何か言ってきたかい?」
「ううん、もうそんな必要無くなったよ! 今日の夕方、バイバイしてきたからさ、今日からはまた、君達とたっぷり遊べるね……?」
近くを通ったオレンジ色のドレスを身にまとったキャバ嬢の腕を取り、その顎をくいと上げると、周りからは黄色い歓声が上がる。その様子を見た男性店員はやれやれと肩を竦めて、「今夜は誰を射止めてしまうのかな」と呆れるような、若干期待するような声で言った。
「ねえキールさん、ここにいること、奥さんにバレちゃったりしないの?」
グリーンのロングドレスに、踊り子のようなフェイスベールを着けたキャバ嬢が男に問いかける。彼女が彼のグラスに酒を注ぐと、男は一口飲んで彼女の肩に手を回す。
「バレないよ。だって彼女とは今日、バイバイしてきたからね」
「え〜、奥さん妊娠してたんでしょぉ、離婚するなんてカワイソ〜!」
離婚という2文字を聞いた瞬間、男の目がすっと冷たく細められた。しかし、その口角は緩やかに持ち上げられたままである。
男が急に黙り込んだことによってしんと静まり返る店内。彼の冷たい微笑みに気が付いた嬢は、静かに唾を飲み込んだ。
「……え、何で何も言ってくれないの? 離婚したんじゃないの?」
「してないよ? 言ったじゃん、バイバイしたって。首絞めて殺してやったんだよ」
15人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「派生作品」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:梟煌 | 作者ホームページ:Twitterには生息しています
作成日時:2020年8月11日 19時