愛は愛憎の愛−2 ページ4
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警視庁 通信指令室。今夜も23区中から多くの通報が寄せられる中、新たに1本の通報が入った。疲れ切った身体に鞭打ち、重い瞼を必死に持ち上げて、指令室に勤める警察官は電話を繋げた。
「はい、110番警視庁です。事件ですか、事故ですか」
極めて業務的な言葉ではあるが、電話の向こうの相手を落ち着かせるため、少々平坦な声でそう応対する。するとヘッドセットに内蔵されたスピーカーの向こうから、非常に焦った声が聞こえてきた。
「リ、リコットが……! リコットが首を吊って死んでるんです、妻が!!!」
「落ち着いてください、それはつまり事件ですね? 今いらっしゃる場所の住所を教えてください」
何度か深呼吸をする音が聞こえると、通報主はところどころ詰まりながらも住所を丁寧に教える。警察官は「通話を切らずに、そこから動かないで、何も触ろうとしないでください」と男に指示した。同時に通話を聴取していた指令台から、現場周辺を巡回していたパトカーへ無線が入る。
「シブヤの高層マンションで首吊りですか、何があったんでしょうね」
「さあな。とにかく、通報してきた夫とやらに話を聞いてみるしかないだろ。行くぞ」
パンダのパーティーマスクを被った先輩警官と、大仏のパーティーマスクを被った後輩警官が乗っていたパトカーが現場へ急行する。指定された階までエレベーターで上がり、長い廊下を走って通報があった部屋まで行くと、部屋のドアは開けっ放しだった。中を覗くと腰を抜かした、20代後半から30代前半くらいの男を発見する。
「大丈夫ですか、奥様はどこですか」
パンダ巡査が男の肩に後ろから優しく手を添えて聞くと、男はぶるぶる震える手で部屋の西側のドアを指差した。
大仏巡査がそれを見てドアを開ける。
「その、そのお風呂場で、妻、妻が、リコットが……」
浴室の内部を覗くと、1人の身重らしき女性がロープで首を吊っていた。
全身の筋肉が弛緩しているために身体中の穴という穴から色々なモノが垂れ流しになっている。腸や膀胱の中の糞尿も何もかもが流れ出ていたため、大仏巡査はあまりの異臭に思わずオエェ、と嘔吐きながらすぐにその場を離れた。
後輩の現場慣れしていない様子を見て自分の新人時代に思いを馳せつつ、大人が嘔吐くほどの現場なのであればこれ以上無理に彼を遣わすべきではないか、と判断する。
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作者名:梟煌 | 作者ホームページ:Twitterには生息しています
作成日時:2020年8月11日 19時