42話 ページ44
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『非術師は嫌いかい?』
『……今は、嫌いです。あんな奴らのために私達が命を賭ける価値なんてない。呪霊を生み出すのが非術師ならば、尚更』
『じゃあ君は、呪術師を辞めたいのかな?』
『……分からないんです。助けたくなくても、呪術師である以上は助けてしまう。殺したくても殺せない。それに呪術界の上層部も醜い奴らの集まりだ。それならいっその事、呪術師を辞めてしまいたいと思う自分がいる』
『…ふむ。では、君を高専に繋ぎ止めてるのは何だ?』
『…………こころ、ですかね』
『心?』
『先に逝った同胞や、守りきれなかった人々。そして助けた人々や、共に戦っている仲間の意志、だと思います。それを守り抜くために、胸を張って仲間の隣に立てるように、呪術師を続けたいと思う自分もいる。何が自分の本音か、わからない』
『……なるほど。興味深い話だ。君をこういう思考に導いたのは、同じ特級の彼女かな?』
『…よく分かりましたね』
『ふふ、まぁ彼女とは付き合いが長いから。どちらを本音にするのかは君がこれから選択するんだよ。君の、選択だ』
話し終わった夏油は、肩を竦めて諦めたように笑って言うのだ。
「本気で殺そうとしたんだ。でも、君の泣き顔が頭から離れなくてできなかった」
神は、見捨てなかった。
私の最後の足掻きに、応えてくれた。
「また泣かせてしまうと思ったからやめたのに、戻ってきても泣いてたね」と意地悪く言うくせに、私の目元に触れる手はどんなものより暖かい。
よかった。本当に、よかった。
ありきたりな言葉しか浮かばないけれど、きっとそれ以上に尊いものはないのだろう。
だから、これでいい。最凶ルートは回避できたんだ。
「泣きすぎて顔が大変なことになってるよ」
「…うるせえ。見んなよ馬鹿夏油」
「それは聞けないお願いだな。この先君の泣き顔を見るのも、その涙を拭うのも全部私の役目だから」
「……何、言って、」
私の涙を拭っていた夏油の大きな手が、耳を掠ってそのまま後頭部を優しく包む。
うだるような暑さの残る9月に、春の訪れのような穏やかな笑みを浮かべた目の前の男は、ゆっくり私を引き寄せて。
「君の望み通り、一生隣で守ってみせるさ。だから、結婚しようか」
いや、まって。
最凶ルートを回避したってか、これ。
「推しとの結婚は解釈違いなので無理ですね!?!?」
別の最凶ルート開いちゃっただけなのでは?
完
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みたらし(元三日月) - 面白かったです!笑える所、ヒヤッとする所…最後にはやっぱり闇落ちしてしまうのかなんて思いましたが、夏油と夢主ちゃんの最後の会話で感動しました…でもやっぱり「最凶」なんだなーと…w夏油推しにはたまらない作品でした!他の作品、これからも応援してます! (2022年3月17日 15時) (レス) @page47 id: 122f030fb9 (このIDを非表示/違反報告)
わらび餅。(プロフ) - さわさん» さわさんコメントありがとうございます!助けられないかもしれない、と思わせてからのどんでん返しをしたかったので、それが伝わってとっても嬉しいです。応援もありがとうございます、頑張ります! (2021年9月6日 8時) (レス) id: b794bc2212 (このIDを非表示/違反報告)
さわ(プロフ) - 今更ながらコメント失礼します!夢主が原作は変えられないと気付いた所は本当に辛くて顔が歪んだのですが最後まで読み本当に嬉しくなりました。これからも頑張ってください! (2021年8月25日 19時) (レス) id: 2994709d1c (このIDを非表示/違反報告)
ミナこ餅 - 完結おめでとうございます。この作品は今まで見た中で1番面白いです。ちゃんと説明もついてますしなにより矛盾してる点などが無いので!これから他作品も見させて頂きたいと思っておりますが、頑張ってくださいね! (2021年5月9日 7時) (レス) id: 5b0fda8cd6 (このIDを非表示/違反報告)
わらび餅。(プロフ) - なな。さん» ななさん、最後まで読んでくださってありがとうございます〜!!戦闘シーンは大分キツくて何度も心が折れかけたのでそう言っていただけるととっても嬉しいです泣 これからも頑張ります、応援ありがとうございます!! (2021年3月6日 20時) (レス) id: b794bc2212 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わらび餅。 | 作成日時:2021年2月6日 21時