27話 ページ29
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「なんか飲むか」
「結構です」
「……つれねぇやつ」
2人で横並びになって自販機前のベンチに、1人分空けて腰掛ける。
もう時刻は日付を超えていて、こんなところが高専の教員に見つかったら確実に説教もんだ。特に夜蛾。
俯いたまま、何も喋ろうとしない夏油に、特に催促することもなく私も黙り続ける。
先に口を開いたのは、夏油だった。
「…1つ、聞いてもいいですか」
こちらに目線を向けることは無く放たれた言葉。私は正面の何も無い空間を見つめながら、「どーぞ」と返した。
口を開いたり、また閉じたり。
聞きたいことがあると言ったくせに、纏まってなかったのか、それとも躊躇っているのか、夏油の薄い唇から音が零れ落ちることはない。
今の夏油傑が私に聞きたいこと、なんて、1つしかないだろう。
"どうして補助監督を助けられなかったんだ"
私も思ってるよ。ずっとさ。
いくら前世の記憶があると言ったって、目の前で人が死ぬ経験はまだ2年目。1年の時だって助けられない命は何度か目にしているが、それでも慣れないものだ。
そしてきっと、それは慣れてはいけないもの。
何度目にしても、自分の無力さを恨む。
強い術式を持っているのに。転生者なのに。
原作では現れなかった、名前も与えられてない補助監督やその他の呪術師のことだって、私は救いたかった。
でも、やっぱり思いどおりにはいかねぇもんなんだよな。
どんな後悔も、絶望も、決して私は見せちゃいけない。夏油傑には、絶対に。
「…聞きたいこと、あるなら言えよ」
なんだって答えてやる。お前が望むなら。
漸く夏油に顔を向ければ、私より数秒遅れて三白眼の瞳がこちらを見た。
「…どうして、」
「…うん」
「どうして、私を助けたんですか」
「……………うん?」
いや、うん?
私が予想していた質問の斜め上をいくそれに、首を傾げることしかできない。
何言ってんるだ、こいつ。
「だってお前、敵じゃないじゃん」
「それは、そうですが」
「味方なら助けんだろ、普通に」
「……でも貴方は、私が嫌いだろ」
眉間に皺を寄せて苦々しく吐き捨てた夏油に、驚きのあまり声が出なかった。
嫌い?私が?夏油を?
「いや、お前のこと嫌いだなんて思ってねぇけど」
「……………は?」
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みたらし(元三日月) - 面白かったです!笑える所、ヒヤッとする所…最後にはやっぱり闇落ちしてしまうのかなんて思いましたが、夏油と夢主ちゃんの最後の会話で感動しました…でもやっぱり「最凶」なんだなーと…w夏油推しにはたまらない作品でした!他の作品、これからも応援してます! (2022年3月17日 15時) (レス) @page47 id: 122f030fb9 (このIDを非表示/違反報告)
わらび餅。(プロフ) - さわさん» さわさんコメントありがとうございます!助けられないかもしれない、と思わせてからのどんでん返しをしたかったので、それが伝わってとっても嬉しいです。応援もありがとうございます、頑張ります! (2021年9月6日 8時) (レス) id: b794bc2212 (このIDを非表示/違反報告)
さわ(プロフ) - 今更ながらコメント失礼します!夢主が原作は変えられないと気付いた所は本当に辛くて顔が歪んだのですが最後まで読み本当に嬉しくなりました。これからも頑張ってください! (2021年8月25日 19時) (レス) id: 2994709d1c (このIDを非表示/違反報告)
ミナこ餅 - 完結おめでとうございます。この作品は今まで見た中で1番面白いです。ちゃんと説明もついてますしなにより矛盾してる点などが無いので!これから他作品も見させて頂きたいと思っておりますが、頑張ってくださいね! (2021年5月9日 7時) (レス) id: 5b0fda8cd6 (このIDを非表示/違反報告)
わらび餅。(プロフ) - なな。さん» ななさん、最後まで読んでくださってありがとうございます〜!!戦闘シーンは大分キツくて何度も心が折れかけたのでそう言っていただけるととっても嬉しいです泣 これからも頑張ります、応援ありがとうございます!! (2021年3月6日 20時) (レス) id: b794bc2212 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わらび餅。 | 作成日時:2021年2月6日 21時