26話 ページ28
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「お疲れ」
「……御手洗先輩」
私の元に戻ってきた夏油に声を掛ければ、酷く気落ちした声が返ってきた。
え?なんか私気落ちさせるようなこと言ったか??
「……ありがとうございました」
「……え、何が?」
お礼を言われるようなことをした自覚が全くなくて、素っ頓狂な声を上げてしまう。
いやだって、何もしてねぇじゃん。
「先輩が来なかったら、死んでいたので。大口を叩いたにも関わらず、何も出来なくてすみません」
暗い表情で紡ぐ夏油に、どうしたものかと口の中でガムを転がす。
何も出来なかった、か。
それはこっちのセリフだ。
「………礼を言うのは私だよ。ありがとう」
「…あれを倒したのは私の手柄じゃない。貴方にお礼を言われる筋合いなんて、」
「あるよ」
あるんだ。あるんだよ。
彼の言葉を遮って強く言い切った私を、意味がわからないという顔で見つめてくる夏油。
そりゃそうだよな。お前は知らない。
まだ、言ってないから。
「補助監督が死んだ」
「っ……!?」
息を呑んだ後輩を背に、そのまま森の出口へ向かう。
私の後ろで、小さく「どうして、」と戸惑った呟きが聞こえた。
どうして、か。
どうしてなんだろうな。私にも、わからないよ。
私は最強と謳われる呪術師なのに。原作を知っている転生者なのに。
なんで、助けられなかったんだろうな。
「…だからありがとう、夏油」
「なに、が、」
「生きててくれて、助けさせてくれて、ありがとう」
お前だけでも、助けられてよかった。
私を何も救えない負け犬にしないでくれて、ありがとう。
私の顔を見た夏油が、眉を下げて泣きそうな顔になった。
上手く、笑えていなかっただろうか。笑ったつもりだったのだけど。
帰りは先に呼んでおいた他の補助監督さんが迎えに来てくれた。
夏油も私も、車の中で一言も喋らず、流れるのは沈黙。
「報告書は私が書いとくから先に帰れ」と伝えたが、夏油からの返事はなくて。
今回の件で恐らく夏油傑は完全に私を嫌悪したことだろう。
特級術師という大層な肩書きを持っているにも関わらず、仲間が死ぬのを見てることしかできなかった私。
嫌悪、軽蔑、憎悪。
夏油が私に抱いてる感情は、そのあたりか。
「…自業自得、だわな」
報告書を提出して寮へ戻る廊下に吐き出した言葉。
それを拾ったのは。
「御手洗先輩」
「………夏油」
脳内に浮かべていた、張本人だった。
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みたらし(元三日月) - 面白かったです!笑える所、ヒヤッとする所…最後にはやっぱり闇落ちしてしまうのかなんて思いましたが、夏油と夢主ちゃんの最後の会話で感動しました…でもやっぱり「最凶」なんだなーと…w夏油推しにはたまらない作品でした!他の作品、これからも応援してます! (2022年3月17日 15時) (レス) @page47 id: 122f030fb9 (このIDを非表示/違反報告)
わらび餅。(プロフ) - さわさん» さわさんコメントありがとうございます!助けられないかもしれない、と思わせてからのどんでん返しをしたかったので、それが伝わってとっても嬉しいです。応援もありがとうございます、頑張ります! (2021年9月6日 8時) (レス) id: b794bc2212 (このIDを非表示/違反報告)
さわ(プロフ) - 今更ながらコメント失礼します!夢主が原作は変えられないと気付いた所は本当に辛くて顔が歪んだのですが最後まで読み本当に嬉しくなりました。これからも頑張ってください! (2021年8月25日 19時) (レス) id: 2994709d1c (このIDを非表示/違反報告)
ミナこ餅 - 完結おめでとうございます。この作品は今まで見た中で1番面白いです。ちゃんと説明もついてますしなにより矛盾してる点などが無いので!これから他作品も見させて頂きたいと思っておりますが、頑張ってくださいね! (2021年5月9日 7時) (レス) id: 5b0fda8cd6 (このIDを非表示/違反報告)
わらび餅。(プロフ) - なな。さん» ななさん、最後まで読んでくださってありがとうございます〜!!戦闘シーンは大分キツくて何度も心が折れかけたのでそう言っていただけるととっても嬉しいです泣 これからも頑張ります、応援ありがとうございます!! (2021年3月6日 20時) (レス) id: b794bc2212 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わらび餅。 | 作成日時:2021年2月6日 21時