【呪術廻戦】最凶呪術師は最凶ルートを回避したい

34話 ページ36

・


いいんだ。そんなもの。
お前はまだ、選ばなくていい。

腕の中の夏油が、私の言葉で少しだけ震えたのが伝わってきた。
抵抗することも無く、ただされるがままになっている彼の頭を、労わるように撫でる。




「私も、ずっと呪術師でいる意味を探して生きてきた」




これは、嘘だ。
私はこの世界に呪霊が蔓延り、自分に力があると知った時から、お前を、夏油傑を守るために生きてきた。
それこそが、呪術師をやる意味だった。


だけど、お前らは違う。
私の世界だったらただ大人に保護されるべき子供のコイツらが、命を賭ける意味をそんな簡単に見つけられるわけが無い。見つけなくて、いいんだよ。




「呪術師をやる中で、お前たちみたいな可愛い後輩や仲間に出会って、やっと呪術師でいる意味を見つけたんだ」





私は、お前たちの前に立って、隣に立って護りたい。命も、心も、何もかもを。



でもまだお前らは高校生で、本当なら守られるべき立場なんだ。だからさ、誰かのためとか、何かのために命を賭ける必要なんかない。




自分のためでいい。






「…自分のためなんて、そんな生き方私にはできない
さ」





自嘲気味にそう零す夏油に、思わず腕の力がこもってしまう。
そうだよな。お前は、そういう奴だ。

だから、あんな結末になってしまったんだろう。誰よりも人の痛みがわかる人間だったから。誰よりも、正義を探す人間だったから。

どうしても、"意味"が欲しいと言うならば。






「私を守ってくれよ、夏油」







私のために、生きてくれ。








「なに、言ってるんだ。君の方が私よりよっぽど、」


「まぁ、そりゃ強いけど。でも、お前が居るから強くなれるんだよ」


「……くさいセリフだね」


「うっせぇわ」




小さく笑った振動が、私の心臓に伝わってくる。

私の胸元に額を擦り付けるこいつは、きっとこの音に安息を求めているのだろう。
どくん、どくんと脈打つこの心臓をお前に捧げてもいいから、どうかいつまでも私たちの隣で笑っててくれよ。




「……悟の方が、君を守れる」


「お前にしか守れないよ、私の心は」


「………………そう」




その日は、赤子のように私を抱きしめて離さない夏油と一緒に眠りに落ちた。

35話→←33話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す