episode２０ ページ37
白布「俺は……和真の恋人だ。もっと頼れよ…俺のことを」
俺を見つめる賢二郎の瞳には、今にも溢れ出てしまいそうなほど、涙が溜まっていた。
悲しくて、苦しくて、辛い顔をする賢二郎。
俺が悩みをひとりで抱えると、賢二郎はこんなにも苦しそうな顔をするんだ。
────俺は大好きな賢二郎に、苦しくなって欲しくない。
────俺がひとりで苦しい思いをして。
────それで賢二郎が悲しむのなら。
────もう、全てを。
────言ってしまおう。
『……俺にはもう…帰る家がない』
ぽつり、とこぼした俺の言葉に、賢二郎の肩がピクリと動く。
『ばあちゃんのあの家は…きっと、取り壊すことになるし。そうしたら俺は……帰る場所がないんだ』
俺はゆっくりと瞼を閉じた。
『……工の家に、これ以上いられない。いることができない。……昨日、工のお父さんとお母さんが言ってた。俺を、九州のばあちゃんとじいちゃんのところに、行かせた方がいいんじゃないかって』
五色「嘘……だろ」
瞼を閉じているから、今、工がどんな顔をしているか分からない。
けれど、「嘘だろ」と言った工の声に、驚きと悲しみ、そして怒りが込められていた。
『俺の父さんの実家が九州にあって…そこでばあちゃんとじいちゃんが暮らしてる。工の家は部屋数が少ないし、俺がいる部屋もないし…だから、工のお父さんとお母さんは俺がこの先、工の家にいることを困ってた』
五色「あのやろ…っ、」
唸るような工の声が聞こえれば、俺は閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げた。
『でも、俺も薄々分かってた。長く工の家にはいられないだろうなって。いつかは工の家から出なきゃいけないって分かってた。だから工、お父さんとお母さんを責めるのは絶対にやめろよ』
五色「でも…！父さんと母さんのせいで和真は…」
『工』
俺は床に倒されていた体をゆっくりと起こしながら、低い声で工を呼んだ。
工は今にも泣きそうな顔で俺を見つめる。
『お願いだから、工のお父さんとお母さんを責めるのはやめろ』
五色「………ごめん、和真」
『ううん』
俺は上体を起こすと、賢二郎はゆっくりと俺の体の上から床へと降りる。
賢二郎は俺の今の発言を聞いて、頭が真っ白になっているのだろう。
瞬きを一切せずに一点を見つめていた。
→
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 66人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
星 - 磯野さんの作品好きすぎて何回も何回も読んでます！更新楽しみに待ってます！ (7月3日 20時) (
レス) @page49 id: 9063271731 (このIDを非表示/違反報告)
尚(プロフ) - いつでもいい。待ってます。2人の幸せを繋いでください。 (6月26日 1時) (レス) @page49 id: 271ac13c56 (このIDを非表示/違反報告)
ゆーき(プロフ) - 磯野さんの作品大好きです！！白布くん推しなのでほんと最高です！！更新すごく楽しみですが磯野さんのペースで頑張ってください！ (2022年9月17日 20時) (レス) id: fc31c82ef2 (このIDを非表示/違反報告)
磯野(プロフ) - 彩都さん» こんにちは、彩都様！この度もコメントありがとうございます。いつも読んでくださりまして、とても嬉しいです！これからも宜しくお願い致します！ (2022年8月25日 14時) (レス) id: 017e5977a2 (このIDを非表示/違反報告)
彩都(プロフ) - 続編，おめでとうございます！！これからの展開がとても気になります！磯野様のペースで更新してください！応援しています！(*´꒳`*) (2022年8月24日 20時) (レス) @page4 id: 11dbb3cd4a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：磯野
| 作成日時：2022年8月24日 20時
