【HQ／男主】特別が、ふたつ。４【木／兎：赤／葦】

STORY 35 ページ12

心底嫌そうな顔を向ければ、藤田は「ブス〜」と言いながら笑う。



「あんなに好きな人に一生懸命になる人って、滅多にいねえよ。お前の事、すげえ好きなんだと思う」

『うげぇ』

「そこは喜べよ。お前も心揺れてんだろ？」

『……まあ』



頭の中に、赤葦の顔が浮かんだ。


赤葦は俺とは真逆の性格をしていて、いつも冷静だし、無口だし、大人しいし、何を考えているか分からない。


俺に向けていつも喧嘩を売ってくるし、どこか上手だし、赤葦には口喧嘩でも正直勝てないと思っている。


けれど、赤葦は俺の事を見てくれていた。


木兎に想いを寄せる俺の事を、見てくれていた。


そして、好きだと言ってくれた。


あの無口で大人しい赤葦が、この俺でも分かるように、きちんと目を見て好きだと言葉に表してくれた。


それが何よりも嬉しかった。


突然キスをしてきたのは少し強引過ぎると思ったけれど、それでも俺は、真っ直ぐに俺の事だけを見てくれる赤葦に、心が揺らいだ。


この人なら。


赤葦なら。


今後もずっと、ずっとずっと、俺の事を見てくれるような気がする。


今後もずっと、ずっとずっと、俺の事を大切にしてくれるような気がする。


そう思ったんだ。



『でも、木兎が…』



そう、引っかかるのが、木兎。


俺は、入部した時から、木兎に「最高のスパイカー」だと認めて貰いたいと思っていた。


木兎からたくさんスパイクの技を教えてもらって、木兎からたくさん褒めてもらった。


楽しい時は必ず傍に木兎がいてくれて、辛い時も必ず木兎が傍にいてくれる。


俺が悪い事をした時は木兎がきちんと叱ってくれて、俺がピンチの時は木兎が助けてくれた。


木兎は、俺にとってかけがえのない大切な人なんだ。


だからこそ、手離したくない。


ずっと、傍にいて欲しいと思う。


木兎と赤葦。


どちらも好き。


けれど、きっと俺は、どちらか一方に恋愛感情を持っている。


そして、どちらか一方は「大切な先輩」それか「憧れの先輩」なのだろう。


今までろくに恋愛経験をした事はないし、ましてや相手は先輩で同性。


頭の中がぐちゃぐちゃになってしまう。


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