STORY 4 ページ8
【及川side】
今日も厳しい部活は終わり、滲んだ汗を首にかけたタオルで拭いながら部室に戻ると、俺の目に止まったのは悲惨な状態の俺のスポーツバッグ。
まだ傷ひとつすらつけていなくて、毎日帰宅をするとスポーツバッグを乾いたタオルで磨くくらい大切にしていたのに。
今、俺の目に映っている俺の大切なスポーツバッグは、ある男の尻に潰されている。
しかも、そのある男は俺のスポーツバッグの上に座りながら、楽しそうに同学年の部員と会話をしているじゃないか。
眉を吊り上げ、怒りがこもったようにずんずんと足音を響かせながらその男に近付き、「ちょっと！！」と真上から叫ぶと、その男はきょとんとした表情を俺に向けた。
及川「それ！俺のバッグなんだけど！」
尻に潰されているスポーツバッグを指で示すと、男は「ああ」と、まるで今気付いたかのように声を漏らしながら尻を浮かせる。
その隙に潰れたスポーツバッグを引き寄せ、潰れてしまった形を元通りにしようと形を作る。
そんな俺の目の前で、再びその男はゲラゲラと下品な笑い声を上げながら、同学年の部員と会話を始めた。
スポーツバッグの形を整えながら、目の前で大きな口を開いて笑う彼を睨み付ける。
確かコイツ、苗字は長谷部、だったよな。
下の名前は知らないけど。
俺に一切謝罪が無いこの男を真横から睨みつけているのに、俺の鋭い視線にも気付きはしない。
なんて無神経な男なんだろう。
絶対にモテないはず。
アッハッハッハ！と、今度は手を叩きながら大声で笑う長谷部に、しびれを切らした俺は、長谷部の肩を掴みグイッと引き寄せながら「ねえ！」と叫んだ。
すると、長谷部は俺の力によりいとも簡単に俺に体を向ける。
長谷部のくっきり二重の真ん丸な瞳と目が合うと、長谷部は肩に触れる俺の手を鬱陶しそうに振り払う。
「ンだよ」と、眉間にしわを寄せ、真ん丸な瞳は徐々に吊り上がり俺を睨み付ける。
悪いのは長谷部なのに、睨み付けたいのは俺なのに、なぜ俺は長谷部に睨まれなければいけないのだろうか。
及川「謝れよ」
「あ？」
及川「俺のスポーツバッグ、踏んだんだから謝れよ」
低い声で唸るように長谷部に言うと、長谷部はチラッとスポーツバッグに目線を向ける。
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作者名：磯野
| 作成日時：2018年4月3日 20時
