STORY 8 ページ26
日に日に俺のチームジャージの上着の布は伸びていき、お母ちゃんには「太ったの?」と勘違いされてしまった。
3日も続くと、皇輝のその行動にも慣れていき、皇輝が上着の中に頭を潜らせても、俺は普通に岩ちゃん達と会話をするようになった。
そして、4日目の日。
体育館の床に座り、両足を揃えて前屈をしていると、俺の足首を誰かが軽く蹴る。
顔を上げて見ると、そこには体を縮こませている皇輝が両手をポケットに突っ込み俺を見下ろしている。
俺と目が合うなり、くしゅんっ!とくしゃみをした皇輝は、鼻をズズッと啜った。
「さみ」
ああ、また暖を取りに来たのか。
ジャージのチャックを全て下ろし、揃えていた両足を広げると、皇輝は俺に背中を向けて俺の両足の間に体育座りをする。
皇輝は自分の体を包み込むようにジャージで覆うと、顔だけひょっこり出るようにチャックを上げた。
よりによって今日は昨日より比べて風も強く、練習をしている最中も体育館の窓がガタガタと震えていた。
ジャージの中に体をすっぽりと埋め、再びくしゅんっ!とくしゃみをする皇輝は、「あ〜…」と鼻声で声を漏らす。
及川「風邪?」
「ちょっとな」
及川「バカは風邪引かないっていうのにね」
「誰がバカだよ」
上着の中で皇輝の腕が動き、肘で俺の腹部をどついてくる。
ヴッ!と声を漏らすと、皇輝はケケッと笑い、「ざまあ」と付け足した。
「でも明日、母さんがクリーニング屋から俺のジャージ引き取ってくれるって」
及川「良かったじゃん」
「おー。だから及川毛布も今日でおしまい」
真っ直ぐ前を見つめて言う皇輝の言葉に、なぜか俺の胸がギュッと締め付けられる。
今日でおしまい、ということは、明日からはこうして上着の中に皇輝が潜り込んで来ることも、二人で至近距離になって会話をするのも、皇輝の背中から伝わるほんのりと温かい熱を感じることも、なくなってしまうんだ。
最初は皇輝の行動に驚いたし、恥ずかしかったし照れたけど、4日も経過してしまえば、これが当たり前になってしまった。
急に寂しくなって、心細くなって、目の前にある皇輝の黒髪をじっと見つめた。
皇輝は平然とした表情で俺の上着の中にいるけれど、どこか俺と皇輝の間には少しだけ距離があった。
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作者名:磯野 | 作成日時:2018年4月3日 20時