STORY 12 ページ26
仕方なく俺はこのまま帰ることを選択すると、影山と一緒に帰路につく。
午前中から太陽が沈んだこの時間帯まで影山と遊んだけれど、疲れなんて一切感じていない。
むしろ、俺はまだ体力が残っているし、遊びたいし、話したいこともたくさんあるし、影山の声を聞いていたい。
だけど、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
24時間じゃ、足りない。
影山は今、どう思っているかは分からないけれど、何やらさっき入ったスポーツ用品店の話を俺にしている。
本当はきちんと聞きたいし、受け答えをしたいけれど、今はこれから別れてしまうことの寂しさでいっぱいだった。
影山の話に、「うんうん」と適当に頷いていると、俺の家の方向と影山の家の方向に道が別れる場所に辿り着いた。
ここで、影山とお別れだ。
今日１日、楽しかったな。
いっぱい話したし、いっぱい聞けた。
次はいつ遊べるのかな。
『じゃあ、影山。また……』
きちんと別れを告げようと、精一杯の笑顔を影山に向けるけれど、影山は隣にはいない。
あれ？今まで隣にいたのにな。
どこへ行ってしまったのだろう。
もしかして、適当に頷いていたことがバレて、それに怒って一人で帰ってしまったのだろうか。
影山の家がある方向へ体を向けるけれど、そこには影山の姿はない。
『影山……？』
消え入りそうな声で影山を呼ぶと、「あ？」と、俺の背後で影山の声が聞こえる。
振り返ると、影山は未だに俺のクラッチバッグを片手に持っていて、俺の家がある方向に歩き出していた。
足を止めて俺を見つめる影山。
そして、ぽかんと口を開いたままの状態で影山を見つめる俺。
数秒間の沈黙が続くと、影山は顎をクイと動かして俺の家がある方を示した。
影山「帰んねぇのか」
『…帰るけど、影山の家、そっちじゃないじゃん』
影山「送ってく」
『もう暗いよ』
影山「送ってくっつってんだろ」
影山の手が伸びてきて、俺の右手をギュッと掴まれる。
影山の大きな手は、俺の手をいとも簡単に包み込んでしまった。
これが、３年間セッターをしていた男の手。
コートの上に立つ選手達の中で、１番多くボールに触れていて、そして司令塔として役目を果たした手。
俺の手を握った影山が、「ちっせぇし冷てぇ」と文句を言いながら、俺の手を影山の薄手のコートのポケットの中に入れた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 56人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：磯野
| 作成日時：2018年3月15日 22時
