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「よっこいしょ」
大きくなって来たお腹を抱えながら洗濯籠を持ち上げたら、千寿郎さんが光の速さで駆けつけてきた。
「重い物持っちゃ駄目ですって！お腹が張りますよ！」
「このくらい大したことないよ」
「駄目です！！ここはおれがやりますから、台所でさつま芋を切っててください！」
「…わかりました…」
洗濯籠を奪うように取り上げられた。
私の妊娠が分かってから、千寿郎さんはどこで学んだのか、やたら人体に詳しくなった気がする。
あと、強くなった。肉体的にじゃなくてこう…、精神的に強めに出てくるっていうか。
私より私の体を気遣っていて、あれは駄目、これも絶対駄目って、厳しくなった。このままお産に立ち会ってお腹の子を取り上げる気じゃないかとすら思えてくるよ。
「フン、そんな大袈裟に大事にせんでも犬だぞ、犬！どうせバカ犬のことだ。安産に決まってるだろ」
朝早くからどこかにで掛けていたお父上様が、いつの間にか帰って来ていた。
見下ろしてくる眼差しは相変わらず手厳しい。
千寿郎さんが、お父上様の態度に私よりも腹を立てたようだった。
「ちちうえ〜！！何度も言ってるではありませんか！Aさんはもう犬ではありません！」
最近、しっかりと意見を表すようになった千寿郎さんを、お父上様がウザったそうに睨む。
「…お前は随分とやかましくなったな…反抗期か？そこのデカ腹は通路の邪魔だからさっさと芋でも切りにいけ！」
しっしっと、手で雑に払ってくる。
追い払われちゃった、とお父上様の横を通り過ぎようとしたら、何か小さい物が目の前に降ってきた。
「…と、」
咄嗟に手を出して受け取る。
なんだろこれ。
手中を開いて見てみれば、丁寧に刺繍が施されたモモイロノ小さな袋が。
これは…寺社にあるお守りだ。
しかも「安産祈願」って縫ってある。
もしかして、朝から出掛けてたのって……これのため？
「お父上様…！」
慌てて顔を上げたらお父上様はもう居なかった。廊下の先を曲がっていく大きめの背中が見える。
「杏寿郎は忙しいからな！」
消えて行った先から、言い捨てるような声が聞こえた
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作者名：皿 | 作成日時：2022年10月2日 15時
