68 きゃくま ページ2
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「いただきます！」
膳を前に煉獄家の方々が食事の挨拶をする。杏寿郎様が一番大きな声を出していた。
皆が箸と椀とを手にする中、私は動かずじっと目の前の膳を見つめる。
「Aどうした？食べないのか？」
杏寿郎様が気付いて声をかけてくれた。
「…なんだか変な感じで」
杏寿郎様の隣に座っているのも、お料理の匂いも、ブチだった時と同じなのに。
「犬だった時はここでお皿でずっと頂いてました。
だからこうして千寿郎さんのお料理を、膳とお箸で頂くのが…逆に新鮮な気分です」
かといって、まさか犬食いなんかしないけどね。
皆が、私の言葉にはっと息を飲んだようだった。
三人に見つめられる中でやっと箸を手にする。
大好きだったさつま芋のおかずをとって、口に入れた。
ホクホクして温かくて、そこいらの料理屋のよりも、ずっとずーっと美味しい。
「…美味しい……千寿郎さん美味しいです！
やっぱり千寿郎さんのさつま芋料理が一番だなぁ」
汁も米もオカズも、全部全部。
「うまいうまい！わっしょいわっしょい！
ですよね？杏寿郎様！」
久々の味を噛みしめながら笑いかけたら、杏寿郎様も満ちたような笑みを返してくれた。
「そうだな！わっしょい、だな！」
「………………へぁ」
なんか変な声がしたぞと目をやると、千寿郎さんがこちらを見ながらへにゃへにゃと表情を崩していた。
みるみるうちに目の周りも赤くなって、水が溢れんばかりに浮いて来ている。
わわっ…ど、どうしたの！？
箸と椀を投げるように置いて、思わずお側に飛んで行っちゃった。
「千寿郎さん？大丈夫ですか？どこか痛むのですか？」
「Aさ…Aさん、本当にブチだったんですね…本当に」
「泣いているの？」
「ブチ……う…」
ポロポロと、大粒の涙が千寿郎さんの頬を転がり落ちていく。
私の食事をする姿にブチの面影でも見たのかな？
急に実感が沸いて感極まってしまったのだろうか。
「どうか泣かないで…お料理が冷めてしまいます」
「うぅ…」
手を差し伸べても、千寿郎さんの涙は止まらない。
どう声をかけたら…と杏寿郎様に助けを求めて目で訴えたのだけど、弟に突然泣き出されたことに戸惑っていて言葉が上手く出ないようだ。
どうしよう…
優しい千寿郎さんが…お世話になった千寿郎さんが泣いている……。
どうしたら………
ぺろ…
気付けば柔らかな頬を、伝う涙ごと舐めていた。
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作者名：皿 | 作成日時：2022年10月2日 15時
