Wanna be your sweetie.��

202. ページ7

>Watanabe side.



電話の向こうのAの声は、いつもより力がない。



「翔太ー、誰と電話してんの？」

隣に座ってた女に服の袖を軽く引っ張られる。

甘ったるい香水の匂いが纏わりついて、振り払うように腕を払った。




電話越しに、ガヤガヤした声が聞こえてきて、

……もしかして飲んでる？



『お前今どこにいんの？』

ーーー居酒屋。

『1人で？』

ーーーうん、でもそろそろ帰る、



やっぱりいつもより格段に元気がない声。


なぁ、今どんな顔してんの？

そんなことが気になるのは、俺の中にまだずるずる引き摺ってる想いがあるからなのか。



今日、気持ちを伝えるのが目黒じゃなくて俺だったら、

Aはきっとまた、前みたいに俺の気持ちを冗談だと思って笑ってスルーするんだろうな。


まだAにあって間もない頃、衝動的にしたあの頃の俺の最大限の告白は、あっさり流された。


俺がフラフラ女で遊んでるから。

なに言っても本気だとは思わねーんだろ？




ーーーまあそういうことだから、切るね。電話ありがと、

『A、』

ーーーん？なに？


酒に酔ったのか、少しのんびりした声が耳元をくすぐる。



『…前に俺に言ったこと覚えてる？』

ーーー言ったこと？…何か言ったっけ？


『"そろそろちゃんと本命の女の子作りなよ。"って。』


ーーーあぁ、言ったね。もしかして、考える気になったの？



Aはちょっと冗談まじりな口調で、そう言って笑う。


俺の会話を聞いていた隣に座る女が静かに目を見開いた。

……あと残ってるのはこいつだけ。



『俺、全員切ることにした。』

ーーー…切る？なにを？

『遊んでた女。』



全部清算するからさ、

次俺がお前に気持ちを伝えるときは、目黒の時みたいに真剣に聞いてくれる？



『…それだけ言いたくて。じゃあな。』

ーーーえ、ちょ、



無理やり電話をぶち切って、テーブルの上に置く。

…完全に俺、目黒に触発されてるな。



「翔太、」

俺の名前を呼んだ隣に座る女の潤んだ目を見つめる。


『…そういうことだから、ごめん。』


女の目に怒りが宿る。…このパターンは、まずいな、

涙目できっと睨まれて、彼女は手を振り上げた。



あー、今日も叩かれんのかな。

でもそれで終われるなら、叩かれたくらいの痛みなんて大したことないか。



……これで俺も、前に進める。


俺の頰に目掛けて振り下ろされた掌に、そんなことを思いながら、ギュッと目を瞑った。


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