episode.2-7 ページ8
ば、と振り返ればその勢いが余って腕が鬱さんにぶつかってしまう。
「ｳﾞｯ」
「あああああああ」
すみませんすみません、と彼に謝る。鬱さんは片手を上げてぷるぷると強打した部分を抑えていた。気にしなくていいよ、という意味の片手なのだろうが、明らかに大丈夫そうじゃない。おろおろとしていれば、また背後から声が聞こえた。
「ア゛ｰｰｰｰｰｰｯｯハッハッハ！！！」
鼓膜を破るような爆音が響く。今度はぶつからないように振り返れば扉からショッピさんとそして、コネシマさんが覗いていた。
笑い声を響かせているのはコネシマさんだが、ショッピさんも微かに笑っているように見受けられる。
「いやぁ、ナイスパンチやなAさん」
笑いを未だに抑えきれないと言った声音で私に人声掛けたあと、コネシマさんはどかり、と私の隣に腰をかけた。そのせいで少し椅子がきつくなり私はギュッと身体を縮こませた。
そんな私たちの様子を見て笑いを納めたショッピさんがようやっと口を開く。
「戦時や潜入時の支援とかと違って今回みたいな討伐は俺には向いてないんよ、討伐って目立ってなんぼっつーところもあるしな」
「目立ってなんぼ……」
「まぁ、俺やゾムさんの部隊によって知られぬ間に暗殺するよりか、バチバチに目立って討伐しましたっつー功績を色んなところに見せびらかせた方が他国や似たような組織への牽制になるってことや」
それにはどちらかというとシャオロンさんやコネシマさんの近接部隊による戦闘が必須になってくる、ということらしい。さらに言えば今回の派遣は私の功績を立てるためでもあるため、それこそ“目立ってなんぼ”という訳だ。
「ところで期間聞いとらんのですけど何時からなんです？」
「可及的速やかに……と言いたいところやけど来週からやね」
オスマンさんがショッピさんの問いに対して人差し指を頬に当てて答える。一々仕草があざといのは全て彼の計算なのだろうか。
「来週って……思ったより早いっすね」
ポカン、とした顔でショッピさんが言葉を零せばそれを拾うのは鬱さんだ。
「まぁ、今回の件は途中から白尾国と合流せなあかんしな」
早めに動いて早めに打ち合わせをして、ということらしい。まぁ事が早く進めばその分スムーズに動けるから良いのだろうが。
視界の隅でエーミールさんがゆっくり紅茶を飲むのを横目に私は机の上のクッキーに手を伸ばした。
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作者名：須戸 | 作成日時：2022年2月13日 20時
