episode.2-5 ページ6
相槌を打ってからはて、と首を傾げる。平民や純粋な軍人であればなかなか貴族の服飾事情について分からない、詳しくはないはずだが鬱さんは知っておられるのか。オスマンさんは外交官で在られるし、恐らくそういう階級の人間達とも渡り合うことは多々あっただろうから知っていてもなんら遜色はないように思える。
だが比較的鬱さんは情報管理室に籠るか戦線で戦っている印象がある。対人スキルには問題ないだろうが、そこまでを知るようになるタイプには思えないのだが…。1人首を傾げていればエーミールさんがんん、と軽く咳払いをする。
私の意識がそちらに向いたことを確認してかおもむろにエーミールさんが大きな地図を広げた。
「収穫祭はこの国の数少ないイベントの一つ。恙無く成功させたいと思うのは誰もがそうでしょう、」
先述の通り収穫祭は国を上げてのイベントであるからそれを目当てに他国から観光客や行商人、時には他国の重鎮がやってくる。大成功を収めればもちろんこの国への利益は大きいはずだ。ですが、とエーミールさんが口を開く。
「……隣国、白尾国との間に山賊が度々出没しているみたいなんですよね」
「……山賊？」
ええ、山賊です、と私がオウム返しで呟いた言葉を拾うエーミールさんがいつの間にかけていたのかメガネを指で押し上げながら小さな溜め息を吐いた。
「意図は簡単。収穫祭目当てにやってくる観光客や行商人達を襲って利益を得ようということなのでしょう」
毎年似たようなのは出ますしね、と呆れたようにこぼすその姿からは疲労感が漂っている。それにたいしてチーノさんが口を出した。
「そんなに問題にする必要性あります？毎年似たようなのでてますけど一般兵の巡回の時に大体潰せてますやん」
確かに、それなら問題ないように思える。では何故わざわざそれを議題に上げたのか。
「…コイツらのせいで死傷者が出てるんですよ」
しかもウチの一般兵と白尾国の幹部一人。空気が一気に重くなった。一般兵ならともかく隣国の幹部……？
おもわず眉を顰めればひとらんさんがごそごそと腰のポーチから文書を取りだした。
「で、これがその白尾国からの書状」
チーノさんと一緒に覗きこめばそこには以下のようなことが長々と書かれていた。
･白尾国と我々国の狭間の渓谷を根城とする山賊が出没していること。
･罠に嵌められた我々国一般兵が白尾国幹部を庇い死亡したこと。
･謝罪、感謝の文、以下略。
はぁ、と思わず声を漏らした。
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作者名：須戸 | 作成日時：2022年2月13日 20時
