春の風～children's home～ (ページ2)

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　顔を上げ、母を見つめる。

　「そんなに驚く？だって心春、学校に行こうとしないし、行かない理由も教えてくれないし。このまま一日一日を無駄にしてだらだらするのも良くないだろうと思って。明日から頼むね」

　笑いながら話す母の言葉が私の心に刺さったけれど、急な話で頭が追い付かない。

　「ちょっと待って。手伝うって、お母さんの仕事を？」
　
　「そうよ」

　「あの？」

　「あの」

　「明日から？」

　「明日から」

　無理だ。私には難易度が高すぎる。お母さんの〝あの″仕事を手伝うなんて。いや、もしかしたら食器洗いとか、そういった雑用かもしれない。それなら、まだ……。

　「分かった。家事は得意だから任せて」

　母の仕事はいつも午前の５時から午後の１０時近くだし、父は単身赴任中だ。
やらざるを得ない状況下にいるために、この家の家事を担っているのは私だ。そのため家事スキルには自信がある。

　「何を言っているの？違うわよ。」

　「え、じゃあもしかして」

　「そうよ。明日お迎えする男の子がいるのだけれど、心春と同い年だしとっても良い子なのよ。流石に未経験の心春に小さい子の御守りなんて大変だろうし」

　いくら同い年だからといって、大役は大役だ。しかも母のする仕事には資格がいる筈だ。当然私が持っている訳がない。

　「お母さん、よく聞いて。私、資格を持ってないよ」

　「手伝うくらいならいいでしょう。もう男の子にも職員の方々にも、許可を得てあるの。人手不足で困っているお母さんを助けると思って……ね？」
　

　昔から母は考えを曲げない人だと、父から聞いている。

私がこの話を断ると母には判っていたのだろう。
先に他の人に許可を得て断れないようにしたであろう母の戦略には、頭が上がらない。

逃げ場はきっともう、無い。