【十二ページ目】拝啓 牛島若利様へ 【牛島若利】

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このひとに嫌われたら生きていけないくせに、私は誰かに拒絶されることが恐ろしい。いつかの思い出が足に巻きついてとぐろを巻いて、私の積み上げてきたものを奪いかねんとする。あのね、でもね

「若利くんが私の憧れなのは、いくつになっても、たとえ試合に負けても、ずっとかわらないよ。そういうことで憧れてるわけじゃないよ」
いつかあなたとのぜんぶが終わってしまう日が来ても、それがなんであれ最初からなかったことになんて、きっとできない。それが漸く理解できたから。
「若利くんが若利くんでいてくれる限り、私はずっと見てるから、だからわすれないでね」
私が私のためにやってきたことは私の脳に、体の隅々に、または習慣に蓄積される。終わっても何も残らないわけじゃない。たとえばこの信頼みたいに。あなたは私の、あこがれで

「…ああ」
「私にバレーボールを見せてくれてありがとう」
「…もっと見せてやりたかった」
「もう十分見せてもらったよ、それにこれからも沢山見にいくね」
「今日が初めてのはずだろう」
「実は高一の頃からずーっと試合見にきてたのよ。若利くんは気がついてないけど」
「！…そうだったのか。気がつかなかった。すまない」
「ううん、私の方こそなんにも言わなくてごめんね。ちょっと恥ずかしかったの。勝手に見に来てたから」
「そんなことはない。ありがとう」
「いつもね、若利くんのかっこいいところ見て、ずーっと頑張ってこれたんだー」

いつか、このひととのぜんぶが終わってしまう日が来るのなら、何の悔恨も残さずに、とは言えないけれど

「そうか」
「今日はスパイクの調子、すごくよかったね。観てて気持ちよかったよ」
「ありがとう」
「レシーブもよかったね。上手だね」
「ああ。だがもう少し早く体勢を立て直せるようになりたいと思う」
「そうだね。サーブがもっと決まるようになったらすごくかっこよくなっちゃうね」
「これからはもっとサーブに力を入れたいと思っている」
「若利くん、課題が見えてるのはいいね。伸び代ばっかりで、もっと強くなれるもん」
「そうだな。もっと強くなりたい」
「それにしても今日は本当にスパイクの調子がよかったね！最後の最後まで打ち切る真のエースだったね！」
「ふ。ふふ」

「若利くんがもっともーっと強くなれたら、沢山試合ができるね」
「ああ。見にきてほしい」
「絶対見に行くね」
「ふ、ああ。来てくれ」

「たくさんバレーできるよ」
「ああ、そうだな」




ああ、楽しかったって、そう思っていたい。

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