検索窓
今日:13 hit、昨日:28 hit、合計:57,689 hit

三十九行目 ページ39

.



ぐっと腰を引き寄せられて身体を隔てていた空間がぴたりとなくなってしまう。私がちょっとたじろぐと、それを見逃さない獰猛な瞳に射抜かれて、身体がじわじわと熱を上げる。

いつのまにか、このひとの目に自分がどう映るのか、気にならなくなっていた。今、薄く開かれた視界の中で、このひとの目に映るものは私以外の何者でもないから。人の瞳は鏡だ。でもこのひとの目は混じり気のない純度の高いもので、透明であるようにも思える。吸収されてしまいそうだとも思う。
「私ね、若利くんの役に立ちたいからね、試合以外のことで誰かに涙を見せないようにするの」
ただ少し、このひとの鏡の映る私は甘ったるい。

「そうか」
「若利くんがどんな無茶しても大丈夫なようにするからね」
「ああ」
「あ、身体を壊すくらいの無茶はしてほしくないけれど、もしもの時のために」
「わかっている」
Vリーグに挑戦しようとしているこのひとは、やっぱり私のずっと先にいる。それはどうしようもない事実で、私は未だに追いつけずにいる。
遠い先の未来の話だと思っていたことが、すぐ目の前に在ることを、私はまだ、自覚出来ないでいた。
「もう二階席から試合を見るだけ、なんてもう嫌なの。私もね、若利くんのいるコートに立ってみたいんだ」

全ては中学二年の時にあなたの出た試合を見た時から始まっていて、難関校白鳥沢学園に受験して、合格した。思えば、私が答えを出した初めての問いの一つ。私にも、報われることがあるのだと知った。
「夢は言うと強いから。だから若利くん、きいててくれた?」
入学して、あなたと同じクラスになって、あなたのことをあたりまえみたいに好きになった。あなたとかけがえのない高校生活を過ごして、とんでもなく幸せだった。これから先、私の人生は貴方に影響されて色んな方向に傾くだろうから、私はどんな形でもこのひとのそばで、このひとだけを見ていたい。私たちがどうなるかなんて、未来に立ってみないとわからないけれど、それでも、コートの上では、あなたの傍に立っていたい。

すべては、初めから繋がっている。

「……俺は、やはりお前がずっと俺の隣にいたのだと思う」

ぱちぱちとまばたきを繰り返した瞳の中で、私の影が淡く揺れた。憧れの人に恋をするのって不純だって最初は思ってた。純度百パーセントのプラトニックな感情に混ざる下心を、隠しておかなきゃって思ってた。でも、初めて解けない魔法にかかったあの日から、夢よりも夢みたいな現実が、あなたが、私に教えてくれた。

四十行目→←三十八行目



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
880人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

あゆむ(プロフ) - 僕達はエンジェルさん» はじめましてー!小学生の頃から!?!すごい…拝啓シリーズも歴史ある作品になってきた気がしました、、笑この作品で若利を知っていただけて更に最推しだなんて嬉しいです!作者冥利に尽きます;;ありがとうございます!おかげさまで更新頑張れます! (2020年9月16日 20時) (レス) id: 67cd23fa6a (このIDを非表示/違反報告)
僕達はエンジェル(プロフ) - あゆむさん、はじめまして。小学生の頃から此方の作品を読ませていただいています。此方の作品こそ、私が若利くんを知ったきっかけなんです。今では推し。ハイキューの中では最推しとなってます。このシリーズ、大好きです。愛してます。応援してます!! (2020年9月12日 23時) (レス) id: d588c749f9 (このIDを非表示/違反報告)
あゆむ(プロフ) - 白猫さん» はじめまして!!読んでくださってありがとうございます;;めちゃくちゃこだわって書いてきたのでそう言っていただけてほんとうに嬉しいです…;///;これからも更新頑張れます!ありがとうございます! (2020年8月21日 23時) (レス) id: 67cd23fa6a (このIDを非表示/違反報告)
白猫(プロフ) - はじめまして。先日この小説に出会うことができ、ゆっくり噛みしめながら読ませて頂きました。書き方や表現の仕方が私の好みドストライクで本当に大好きな作品に出会えて嬉しいです(o^^o)これからも、あゆむさんの描く若利くん拝ませてください! (2020年8月13日 7時) (レス) id: 82d1d6768d (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:あゆむ | 作成日時:2020年7月31日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。