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若利くんの放ったスパイクが私の腕の上で高く跳ねた。私にとって十分強打のそれに後ろへ吹っ飛ばされて倒れると、慌てて駆け寄ってきてくれた若利くんの顔が天井を背に目に入った。注がれる光は眩しくて、何度か目を瞑ると、視界が影で覆われる。あ、若利くんしか見えなくなった。
「大丈夫か?怪我はないか、骨は折れてないか?腕以外に痛みを感じるところはあるか」
「あはは、んふふ!若利くん大袈裟だよ!大丈夫、腕痛いけどすごかったー!!忘れられない!内出血見て!!」
「あああ」
「はははは!!若利が動揺してんの見んの楽しいな」
瀬見くんの笑い声なんかお構いなしの若利くんが、差し出してくれた手を取って起き上がると、重力に従って腕の熱さの主張が激しくなる。いたくてじんじんする。いたい、いたいけどこれもバレーボールだ。こうやってこのひとも、強くなっていったんだ。このひとと、こんな風にバレーができたら、どんなに幸せなことだろうと思う。でも私はバレーボールをする楽しさをまだ知らない。
「お前ら二人してお互いの怪我に敏感すぎんだよ、明らかに平気だろ」
「牛島夫妻と呼ばれているだけあるな…」
私たちのいる外側で大平くんだか山形くんだか、誰かの声が聞こえるけど、今は二人だけのような気分になった。
若利くんがやけに弱々しく私の頬に触れた。
「本当か?本当に平気か。顔に当たったりしていないか?」
「うん。大丈夫」
「強くぶつけてすまない。痛かっただろう」
「全然平気!」
「すごく腫れている」
「大丈夫。すぐ引くよ」
あ。やっぱりいつもとちょっと違うなと思う。このひとの仕草が、少し前の私みたいだったから。その当時の私も若利くんからこう見えていたのかもしれないと思った。ああ、でもちょっと違うな。若利くんは私よりも強いから、思い通りにいかないことでうだうだ悩んだりしない。トラウマに囚われ続けたりしないし、無謀なことだってしない。
「ね、若利くん。大丈夫だよ。こっちみて?」
私も彼に倣うように頬に右手を添えると、頬がこの手に埋もれた。それなのに、彼はなんだか申し訳なさそうで、心が嫌に軋む音がする。
「…すまない」
「心配しなくて大丈夫だよ。ありがとう!」
両手でぱちん!と若利くんの顔を包むと、彼は目を丸くして私を見た。この掌はあなたの少し冷えた頬を温められるくらいに温度は持っている。どこまでも強いこのひとに、こんな顔は似合わないから。
「あのね若利くん!わたし大学に入学したらバレー部に入るね!」
「!?!……マネージャー…でか…?」
「ううん!選手で!」
「!?!?」

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あゆむ(プロフ) - 僕達はエンジェルさん» はじめましてー!小学生の頃から!?!すごい…拝啓シリーズも歴史ある作品になってきた気がしました、、笑この作品で若利を知っていただけて更に最推しだなんて嬉しいです!作者冥利に尽きます;;ありがとうございます!おかげさまで更新頑張れます! (2020年9月16日 20時) (レス) id: 67cd23fa6a (このIDを非表示/違反報告)
僕達はエンジェル(プロフ) - あゆむさん、はじめまして。小学生の頃から此方の作品を読ませていただいています。此方の作品こそ、私が若利くんを知ったきっかけなんです。今では推し。ハイキューの中では最推しとなってます。このシリーズ、大好きです。愛してます。応援してます!! (2020年9月12日 23時) (レス) id: d588c749f9 (このIDを非表示/違反報告)
あゆむ(プロフ) - 白猫さん» はじめまして!!読んでくださってありがとうございます;;めちゃくちゃこだわって書いてきたのでそう言っていただけてほんとうに嬉しいです…;///;これからも更新頑張れます!ありがとうございます! (2020年8月21日 23時) (レス) id: 67cd23fa6a (このIDを非表示/違反報告)
白猫(プロフ) - はじめまして。先日この小説に出会うことができ、ゆっくり噛みしめながら読ませて頂きました。書き方や表現の仕方が私の好みドストライクで本当に大好きな作品に出会えて嬉しいです(o^^o)これからも、あゆむさんの描く若利くん拝ませてください! (2020年8月13日 7時) (レス) id: 82d1d6768d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あゆむ | 作成日時:2020年7月31日 18時

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