九行目 ページ9
.
心の奥底から、お腹から喉にかけて声にならない悲鳴が通り抜けて意識が飛ぶかと思った。いや、一瞬は気絶した。でもそこは不屈の精神で目覚めるのが私。少し照れてる牛島くんの瞳はさっきと打って変わって右往左往している。視線はどこか居場所を見つけたいみたいだった。
「…だめか？」
「ごっごごごめんね、こ………心の準備が…」
初めて会った時から牛島くんの声の重低音が大好きだった。低くてかっこよくて安心できて耳に馴染んだ心地の良い声。初めの頃は名字を呼ばれるだけであんなに緊張していて、今頃になって漸く慣れて来たのに今度は名前だ。ついに名前だ！！名前だー！！
「それは良いということか？」
「うん！！そう…ほんとう…ちょっとまって…今から落ち着くね…」
牛島くんが名前で誰かを呼んでるのってみたことあったっけ、もしかしたら私が見たことないだけで本当はあるのかも、いやいやほとんど一緒だったし…一緒にいた！？いやいやいや…自惚れるにもほどがある。わかってはいてもどんどん恥ずかしくなって来て顔を手で覆った。忘れちゃだめだ…ここは玄関だから…。
「待てない」
「え？」
「A」
天童くんのような紳士に名前を呼ばれても何かきゅんとしたことはなかったし及川くんのような華やかな顔のイケメンから名前で呼ばれても昔のイメージが抜けなくてなんとも思わなかった。他の誰とも違う。なんだか感動してまた涙が出そうになって来た。勘弁してほしい。勘弁してほしいけどもう立ち止まれない。
「も、もっかいゆって」
「A」
「うふふっ…フォッ…」
「…なんだ」
「良い響きだなって…」
「お前の名前は良い名前だぞ。A」
「ちょっとやめて。それ以上は良くない。耳に」
「何故だ。今漸く慣れてきた。A？」
「もー牛島くんやめて、からかってるの？また」
「なんだ、Aは俺を名前では呼んでくれないのか」
予期していなかった流れに心臓が飛び出そうになった。落ち着いて考えてほしい。牛島くんは絶対に冷静じゃないんだ。きっ…とそうだ。そうなんだ。熱に浮かされてる。だったらなんの熱？
私の口からは乾いた笑いがいくつも出た。私が牛島くんの名前を呼んでいいんだと思うとどうしたって表情筋が緩んで溶けそうな勢いだったから慌てて下を向いた。それに合わせて彼が私の顔を覗き込んでくるものだから、慌てて顔を手で隠す。すると、「A？」と優しい声で呼ばれる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 714人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆに(プロフ) - あゆむさんの物語の書き方、構成、全部好きです！これからも更新頑張ってください。ずーっと応援しています！！ (2019年1月5日 13時) (
レス) id: 2609f34306 (このIDを非表示/違反報告)
ゆに(プロフ) - 覚編も合わせ全編読ませていただいています！ (2019年1月5日 13時) (レス) id: 2609f34306 (このIDを非表示/違反報告)
梅星饅頭(プロフ) - ご、ご本が出るんですか！？？これは買わないといけない……ア"ッ分かります需要と供給がまっったく一致していないですよね…つらい！ 今年も一ページ目から一文字一文字若利くんの尊さを感じて新年迎えさせていただきます。お体に気を付けて あゆむさまもよいお年を！ (2018年12月31日 23時) (レス) id: baf07f2d20 (このIDを非表示/違反報告)
くー(プロフ) - 本だァ“ァ“ァ“ァ”ァ“ァ”！！！めっちゃ楽しみにしてます！！！！ (2018年12月23日 15時) (レス) id: 4b69e817ff (このIDを非表示/違反報告)
ユウ(プロフ) - 本めちゃくちゃ欲しいです！！書籍化になるのを楽しみにしています。 (2018年12月23日 15時) (レス) id: 0e45367a12 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あゆむ
| 作成日時：2017年12月28日 20時
