二十九行目 ページ29
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若利くんがぐっと顔を近づける。私は脊髄反射で顔を逸らした。こればっかりは高一の頃から変わらない気がする。けれど決定的に違うのは、昔は無意識だったろうに、今じゃきっと確信犯だ。約二年の成長の賜物なんだろう。そんな成長の仕方は遂げて欲しくなかった！
「楽しみだけど…」
「けど？」
「はい！よくない！若利くん最近、意地悪にやったでしょ！もういいでしょ！」
「よくない」
ぐい、と腰を引かれて、驚いてバランスを崩した。すると、それを見越していたかのように、若利くんが私を軽々受け止める。そのまま背中に手を回されて、ぎゅうっとを抱きしめられた。「誰かに見られたらどうするの…」なんて消え入りそうな私の声を、しっかりと拾って、彼は「誰も見てない」と得意げに呟いた。
暗い図書室の真ん中に、ポッカリと穴が開いたかのようにあるこの中庭は、用務員さんのおかげで可愛らしい風貌を保っていられていた。まあ確かに、若利くんの言う通り、お昼時に図書室にわざわざやってくる人なんてごく少数だ。誰も見てないだろう、でも私はこの現状を知ってる。私が見ている。
「若利くん…」
「ん？」
「ちょっと恥ずかしいから…」
天然もほどほどにして、とぽつぽつ言葉を紡いだけど、頬が温度を上げてくばっかで若利くんは私を離してくれない。両肩をしっかりと包む体温にひどく安心して、それと同時に好きだなあと思ってしまう。
好き、と一言、言ってしまえばこの関係はどう転んでいくんだろう？この言葉を一つ零したら、どれだけ簡単なんだろう。
若利くんは誰にだってこんなことをする人じゃない。わかっているから、決めるのはきっと私だ。
「若利くんと踊るの、楽しみだよ。だから頑張るから、離して」
「わかった」
若利くんの表情を、やっとの思いで見た。彼は、柔らかく目元を綻ばせて、私を見ている。
彼の瞳の中は、吸い込まれそうに深い緑をしている。柔らかくて、森の中みたいだな、私、初めて若利くんのこの目を見た時、どう思ったんだったかな。こうやって向き合うと、思い出すことがたくさんあった。ああ、彼は私の幸せそのものだ。
「若利くん」
「どうかしたか」
いま、私は、あの瞳に私と同じものを見ている。
「なんでもない」
「そうか」
思い出したら、私はずっと、初めて会った時から、若利くんに自惚れている。
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ゆに(プロフ) - あゆむさんの物語の書き方、構成、全部好きです！これからも更新頑張ってください。ずーっと応援しています！！ (2019年1月5日 13時) (
レス) id: 2609f34306 (このIDを非表示/違反報告)
ゆに(プロフ) - 覚編も合わせ全編読ませていただいています！ (2019年1月5日 13時) (レス) id: 2609f34306 (このIDを非表示/違反報告)
梅星饅頭(プロフ) - ご、ご本が出るんですか！？？これは買わないといけない……ア"ッ分かります需要と供給がまっったく一致していないですよね…つらい！ 今年も一ページ目から一文字一文字若利くんの尊さを感じて新年迎えさせていただきます。お体に気を付けて あゆむさまもよいお年を！ (2018年12月31日 23時) (レス) id: baf07f2d20 (このIDを非表示/違反報告)
くー(プロフ) - 本だァ“ァ“ァ“ァ”ァ“ァ”！！！めっちゃ楽しみにしてます！！！！ (2018年12月23日 15時) (レス) id: 4b69e817ff (このIDを非表示/違反報告)
ユウ(プロフ) - 本めちゃくちゃ欲しいです！！書籍化になるのを楽しみにしています。 (2018年12月23日 15時) (レス) id: 0e45367a12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あゆむ
| 作成日時：2017年12月28日 20時
