痛み、歪みも恋のうち (ページ6)

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清香の真っ直ぐな視線が、突き刺さる。
それだけ強い思いなのだと、嫌でも感じる。
そして彼女は一瞬、顔を曇らせて。
ゆっくりと口を開いた。

「浮気したことは、...ごめんなさい。私が悪い。」
『...清香』
「自分が自然体でいられる。紫耀より魅力的な人に、惹かれたの」
『...そっか。そういう事か.....』

それは、俺とは自然体の自分でいられなかったという意味だよな。清香。
浮気されてる側なのに。俺は。
どうして今になって。清香のことを考えて。
...胸が痛くなるんだよ。

最後に聞いてもいいよな。これくらい。

『その彼に出会うまで。...好きだった？俺のこと。』
「もちろん。一番に愛してたよ...。紫耀のこと」

―――――
一人きりの帰り道。広がる綺麗な夕空。

俺は清香の気持ちに、気づいてあげられなかったんだ。
なあ、清香は知ってるのかな。
清香は可愛くて。頭も良いしっかり者で。君の優しさに何度も支えられてたんだ。

俺にはもったいないくらい、素敵な女性だった。

会うたびに綺麗になっていく君を。
ますます愛おしいと、感じてた。

頭の中を駆け巡る。
温かくて安心する清香の体温。
後ろから俺にぎゅってされるの、好きだったよな...とか。
堂々としてるように見えて、意外と照れ屋なとこ。
” 紫耀の手が好きだ ”と、褒めてくれたとこ。
我慢強くて、弱音をあまり吐かないとこ。
目を細めて笑う無邪気な笑顔。

全部、君のこと。

俺が君の気持ちに、気づいてやれてたなら。

” 大丈夫だよ。そんな事、清香が気にする事ではないんだから。 ”って。
言ってあげたかった。
抱きしめて、...言ってあげたかった。

『...情けないな。俺は、』

左手の人差し指に光る指輪。
そうだ。これは清香とお揃いで買ったものだ。
思い出して苦しくなる前に。
清香とのどんなに小さな思い出も。
思い出して苦しくなる前に。

ふと立ち止まる。もう家まですぐそこだ。
住宅街の歩道で。
静かに指輪を外した。

投げ捨ててしまおうと、考えたけれど。
今は出来なくて。バッグの中にそっと締まった。

...清香。
俺はずっと、君が好きだった。
愛してたよ。心から。

じゃあね、清香。