痛み、歪みも恋のうち (ページ5)

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彼女が浮気した理由 1 ページ5

もう俺は決心したんだ。清香(きよか)と別れると。
その方がお互いのために、一番良い選択だと思うから。

彼女をカフェへ呼び出した。
表通りにある、コーヒーが美味しい俺のお気に入りのカフェ。
残酷なことに...彼女の浮気現場を目撃した歩道の、向かい側にある店だ。

『...なあ、清香。...別れよう。』
「...紫耀。」

突然の俺の切り出し方に。驚いて目を見開いた彼女。もしかして、清香の狙いだった？俺から別れたいと言い出す事は。

『この前さ。ここの店を出た時。
俺、見ちゃったんだよね。
向かい側の歩道で。男性の人と仲良さそうに手を繋いで歩いてるとこ。二人で。』
『...清香の好きな人だよね？』
「.....っ、」
『あとな。これは別の日だけど。
覚えてる？俺の家、泊まりに来た日。
清香の胸元や首筋に。キスマーク見つけたんだよね。...俺が付けたやつじゃなくて。』

『虫刺されではないことは、俺でも分かるよ。
赤黒くうっ血する。あまり綺麗な形では付かない。...キスマークだから。』
『あの日一緒に歩いてた男性が、付けたやつじゃないの？...違う？』

清香は黙り込んだ。
やっぱり図星なんだろう？もう、正直に話してくれよ。全部。...怒らないから。俺。

「...そうだよ。紫耀の話してる事は全部、本当。まさかあの日、紫耀が。ここのカフェにいたなんてね...」
『清香も知ってただろ？俺がよく行く、お気に入りのカフェだって』

俺は自分でも驚くほど、冷静さを保っていた。
清香の言葉に心が、ぐらぐらと揺れ動く事なく。

『俺、清香に何か悪い事した？
気づかぬうちに、いっぱい傷つけてた...？
あるなら今、話して欲しい。』
「ううん。...それは、...ないよ。」
『なら、どうして、浮気なんか...っ、』

テーブルの上のアイスコーヒーの氷は。
先ほどよりも溶けかけていた。

「優しくて包容力があって。加えて紫耀は、綺麗ですごくかっこいいから。」
「だんだんと気負う気持ちが、出て来て。
自分に劣等感を、感じるようになっていった...」

どういう意味。
俺は予想もしてなかった清香の浮気の理由に。
何も返す言葉が見つからない。
え、何それ...。俺と一緒に過ごすことが、清香にとって必要以上に気を遣って。ましてや、劣等感って.....。

「劣等感って...。俺、清香が思ってるほど、できる男じゃないで。完璧ではないよ。そんな事、気にしないでいいのに」
「だからこそ。彼といると、楽でいられるの」