側にいてくれるのは紛れもなく、君 ページ29
仕事終わり。20時頃。すっかり夜だ。
数日分の着替えやメイク道具など、なるべく最小限におさえた荷物で。
向かう先は紫耀くんの家。
5階建くらいのこぢんまりとしたマンション。
なんだか胸が弾む。仕事終わりに一人の家へ帰るのではなく。彼に会えるのが嬉しくて。
インタホーンを押す。弾んだ思いを抱えて。
『いらっしゃい。
いや、お帰りの方がいいかな。お帰り』
「お帰りって照れるよ。...ただいま。」
『ふふ、照れ屋さんやな。お疲れ。待ってたよ』
「お邪魔します」
出迎えてくれた。穏やかな笑顔。
”お帰り”という言い方に、照れてしまった。
同棲してる彼女や、奥さんに言うみたいで。それは。
初めて入る紫耀くんの家。
リビングと寝室は分かれてる作り。
綺麗に整頓されていて居心地が良さそうだ。
『どうする?先。お風呂入りたい?』
「そうだな。お風呂借りようかな」
『目元のメイク落とすやろ?先に。コットンで。洗面所も遠慮なく使っていいからね』
「ありがとう。よく知ってるね。目元のメイクと顔のクレンジングを分けてること」
一瞬、罰が悪そうに逸らされた視線。
『ほら、その、元彼女がそうだったから。Aも同じなのかなって。思って』
「一緒だよ。私も。細かいとこ見てるね。さすが紫耀くん。お風呂借りるね」
―――
洗面所のドアを閉めて。
メイクを落とそうと、コットンと目元用クレンジングを手に取ろうとした時。
ふと頭をよぎった。紫耀くんのこと。
ここまで私を心配して、優しくしてくれて。
ありがたい事だ。
これはもう、普通の友達以上の関係なのではないか。そう考える日々。
大吾との件を相談していた相手は、紫耀くんだけ。
当然ながらことの詳細は、紫耀くんしか知らない。
でも、ここまで私のために時間を割いてくれる
のはなぜ。
迷惑な顔一つ見せないのはなぜ。
胸に染み込んでくるんだ。君の優しさが。
「.....っ、...ぅ、」
涙が頬を伝う。
悲しいんじゃない。嬉しくて。
紛れもなく、いつも側にいてくれるのは紫耀くん。
ここで泣いてるから大丈夫。
紫耀くんには気付かれずに済むだろう。
そろそろ涙を拭って、目元のメイクを落とさねばと。
気持ちを切り替えようとしたその時。
『A!まだ洗面所いる?ごめん。バスタオルなかったやろ。持ってきたよ!』
ハッとした。
紫耀くんがバスタオルを持って、洗面所のドアの前へやってきたのだ。
私も迂闊だった。バスタオルが無いこと。
『開けても平気?』
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作者名:若菜 | 作成日時:2017年3月31日 18時