彼の提案 ページ27
「私が男を見る目がなかったんだよ。
大吾の優しさを、心のどこかで信じていたんだよね。」
付き合い始めた当初は優しかった大吾。
暴力を振るったり、歪んだ愛情を持ってる人ではなかったのだ。
だが、付き合った段階で。彼の心の闇を見抜いて。私から早々に、別れを告げれば良かったのだ。
彼の優しさを、どこか心の奥では信じていた。
本当は、大吾は優しい人だって。
別れを告げる勇気が、なかなか持てなかった事。
彼の優しさを信じていた結果、招いた出来事だ。
自業自得だと。情けなさも込み上げてくる。
『別れたと言えど、まだ心配だからさ。
夜、危ないだろ。また急に押しかけて、襲われるかもしれないし。』
『良かったら、しばらく俺の家、泊まる?』
「紫耀くんの家で...?」
『ちゃんとA専用に、お客さん用のお布団もあるから。あと、一番風呂にも入らせてあげる!それに、俺もご飯作れるし、』
心臓に悪い。
男の人の家は、ただでさえどきどきしてしまうのに。
紫耀くんの家で二人っきり。
もちろん、紫耀くんなりに、私を心配してくれた上での提案なのは伝わる。
どうしよう。
だが、大吾がまた押しかけて来る可能性はゼロとは言い切れない。
状況が落ち着くまで。しばらくの間。紫耀くんの家にお邪魔するかたちが、得策なのかな。
「しばらくの間。お邪魔させて貰おうかな」
『じゃ、決まりな。いやらしい事しないから。』
「分かるよ。紫耀くん、真面目だしそんな軽い人じゃないって事。」
「ありがとう。信じてくれて」
彼氏ではない男性の家へ一人で行くのは、
時として、不純な関係を結ぶ要因にもなる。
紫耀くんは私の彼氏ではない。友達だ。
けれど、私も知ってるから。
彼が誠実で真面目な人であることを。
少しの間だけ。紫耀くんのお言葉に甘えようと思う。
気づけば時刻は、朝9時になろうとしていた。
そろそろベッドから出ようか、と。
一緒にベッドから出た。
「今日、私ね。お昼から仕事なの。だから終わったら、紫耀くんのお家へ向かうね」
『分かった。俺は今日休みだからさ。ご飯作って待ってるな』
「奥さんが言う発言みたい(笑)」
『ははっ、確かにな(笑)』
目を細めて彼は笑う。
紫耀くんのくしゃっと目を細めた笑顔につられて、私も笑った。
なんて和やかな朝なのだろう。
夢見がちなこと、妄想が過ぎるのは承知の上だ。
まるで彼氏みたいだ。紫耀くん。
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作者名:若菜 | 作成日時:2017年3月31日 18時