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帰宅してからテーブルへ置きっぱなしのハンカチを、手に取って。涙を拭う。
泣いてた事を隠したくて。
心配かけたくない。
紫耀くんにはできるだけ、笑顔で会いたいから。
―――――
電話を切ってから、30分ほど経った頃だろうか。
ピンポーンとインターホンが鳴った。
玄関へ足早へ向かう。ドアを開けると、柔らかい笑顔を向けた紫耀くん。
『久しぶりだね。紫耀だよ。』
「...紫耀くん。ありがとう。わざわざ来てくれて」
『大丈夫やで全然。
どしたん、彼氏と何かあったん？』
「ちょっと色々あって」
紫耀くんを居間のソファまで案内して。
私も隣へ腰掛けた。
「昨日、彼の家に泊まったのね。それで翌朝の今日。おもちゃの手錠で、ベッドの鉄格子の柱に繋がれたの」
『え、手錠...。どうしてそんな経緯に？』
「夜中、トイレへ起きた彼が。その時たまたま耳にしたんだって。」
「私が、”紫耀くん”と。うわ言のように、呟いていた事を。」
『...俺の名前』
「それに嫉妬した彼が怒って。おもちゃの手錠で、私をベッドの柱へ繋いだんだ」
『そうだったんだ。歪んでるな。その彼の行動。
おもちゃとはいえ、手錠かけるなんて。悪趣味だろ』
紫耀くんは私の瞳を見つめ、うんうんと頷きながら。私の言葉に耳を傾けてくれてる。
「紫耀くんは友達だからって。
私を女として、見てる訳ではないからって。必死に説明して、」
『...A』
「その後、我に返って彼は手錠を外してくれた。
でも、もし。もし、あのまま繋がれたままだったら...」
言葉に詰まる。
指先が震える。
朝の出来事を思い出すと、胸をぎゅっと締め付けて苦しい。
紫耀くんは悲しそうな顔で、私の顔を覗き込んだ。
『無理して、言葉にしなくていいから、な』
「...っ。紫耀くん...」
『怖かったよな。すぐに別れた方がいいよ。そんな男とは』
『Aが心配だから。俺。』
紫耀くんの左手がそっと、私の右手へ触れて。
震える私の指先を優しく摩る。
「紫耀くん...、」
『震えてるから。指先』
紫耀くんが触れてる指先が、熱い。
とくとくと高鳴る鼓動。それに気付かれぬよう。
平静を装う私。
紫耀くんは友達だ。だが、包み込んでくれる温かさ、優しさを持ってる。
私にも優しい。いつも親身に話を聞いてくれる。
素敵な人。
不意に感じた。
君に愛して貰える女の子は、幸せだろう。きっと。
『...A。気になってたんだけど。
目が赤い。...泣いてたの？』
『俺が来るまで。一人で、泣いてたの？』
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作者名：若菜 | 作成日時：2017年3月31日 18時
