してやられたり ページ41
「父さん……この後、ちょっといいかな」
静かな夕飯の席で、恐る恐るという風に肩を竦めながら話しかけてきたAに、フガクは持っていた茶碗を危うく落としそうになった。それほど珍しい事だったのだ。
必死で取り繕った父を、息子が冷めた目で眺めた。
「な、何？」
「二人の時間が欲しいんだ」
「……！？」
益々信じられない事であった。フガクは頭の中で素数を幾らか数えて、そして何でも無いように平静の厳しい顔を作った。
「……A、オレも暇では」
「貴方、ご飯のお代わりは？」
はて、フガクの茶碗にはどう見ても半分以上の白米が残っている。何の事かと妻に顔を向ければ、ミコトは聖母の様な笑みで繰り返した。
「お代わり……なさいますよね？」
フガクは見た。
めしりと音をたてて、ミコトの手の中で杓子の柄が潰れるのを。
フガクは見た。
イタチの切れ長の瞳の中で、ぐるりと車輪が廻るのを。
＿＿＿フガクは勤めて厳かに頷いた。
◇ ◇ ◇ ◇
「実は父さん。折り入ってお願いがあるんです」
……お願い？ お願い、だと？
上座に胡座をかくうちはフガクの目の前には、きちんと足を揃えて正座をした娘が此方を真剣な瞳で見上げていた。
「何だ一体、言ってみなさい」
「聞き入れてくれる？」
「まあ、お前が頼み事だなんて珍しいからな」
いや、珍しいというより、初めてでは無いだろうか。
さあ来い……人形か？ 洋服か？ まだお前に化粧は早いぞ！
フガクは、何時も自分と二人きりになると貝の様に口をつぐんでしまうAが、強い目ではきはきと話し掛けてきた事に若干舞い上がっていた。そして、こてんと小首をかしげた娘の可愛さにやられ、ほんの少しだけ、親馬鹿になっていた。
そう、馬鹿になっていたのだ。
＿＿＿故に、この少女が女の子らしいおねだりをする筈も無いことに、気がつかなかった。
「……男に二言は無いんだよね」
「あ、嗚呼」
少女は＿＿Aは、にやりと。息子を思わせる笑みを作った。
＿＿＿どうも雲行きが怪しくなってきた、とフガクは＿＿歴戦の忍である凶眼のフガクは、冷や汗をたらりと流す。
「じゃあ豪火球の術、教えてくれますよね！」
…………何だと？
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
【裏話】
「父さんに修業をつけて貰いたいんだけど、どうすれば良いかな……」
「兄さんでも良いんだぞ、A」
「あら、珍しい。……そうね、父さんは『男』を押されると弱いから……例えばね」
「ふむふむ」
「兄さんでも＿＿＿」
終わり
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黒狐(プロフ) - 初コメ失礼致します！こちらの作品がとても気に入りました！もう更新はしないのですか？表現やストーリーが面白くて好きなので、できれば続きが見たいです！よろしくお願いします！ (2017年11月1日 23時) (
レス) id: f1f9f2f1cd (このIDを非表示/違反報告)
恋人未満(空中浮遊)(プロフ) - 津々さん» ありがとおおおお！！！受かったとかすぐに信じられなかった(笑)もーほんとにヒヤヒヤしたよ......(笑)あれからライラ達をどう動かすか考えて更新しないで放ってる...あとでやらなきゃ(笑) (2017年2月19日 14時) (レス) id: 22b4f5ce74 (このIDを非表示/違反報告)
津々(プロフ) - 恋人未満(空中浮遊)さん» わああ、くーちゃんお久しぶりです！！合格おめでとおおおおお！！！！！いやあ、おめでたい！！本当に良かったね！！今日は祭りじゃぁあ！！さあ、続きを読ませるのだ(笑) (2017年2月19日 14時) (レス) id: c792e0aea1 (このIDを非表示/違反報告)
恋人未満(空中浮遊)(プロフ) - 津々さん» 津々ちゃん久しぶり！受験受かったよ！！＼(^o^)／ (2017年2月19日 9時) (レス) id: 22b4f5ce74 (このIDを非表示/違反報告)
津々(プロフ) - 葵さん» コメントありがとうございます！せっかくイズミ姉さんに励まされたので、明るいお話も書かなくてはと思ったら暴走してしまいました……(苦笑)続き、頑張らせていただきます！フガクさんはきっと隠れ親バカ……(ぼそり) (2017年2月13日 22時) (レス) id: c792e0aea1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：津々 | 作成日時：2016年11月4日 1時
