一時だけでも幸せを (ページ8)

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戸惑いページ8

連れてこられた部屋は、これまで見てきた部屋より質素で必要最低限の者しか置かれていなかった

「ここに座ってお待ちを……どこに座っているのですか？椅子に座りなさいな」

床に座ろうとしたルワードに侍女は椅子を指さした
この部屋で一番高価そうに見える椅子
ほんとうに座っていいのだろうか

『リリィ、私、紅茶が飲みたいわ』

ガチャリ、とルワードたちが入ってきたのと別の扉が開く
隣に立っていた侍女が慌てたように扉に走った

「A様、そのようなお姿で!!」

『なんの話……あっ!!』

扉から出てきた人物はルワードの姿を見た瞬間固まってしまった
濡れた髪と気崩した服
この屋敷の主人、A宮であった

『ななな、なんでルワードがいるの!!?』

「あなた様が連れてきてほしいと言ったのでは無いですか!!」

『そうだけど!!私今から本を読もうかと……』

「まぁ、勝手ですこと。手当はもう終わってましたわ。さぁさぁ、早く着替えなさいませ」

侍女は強引にA宮を扉の外へ押し込むとバタンと音を立てて扉を閉めた

数分後、また扉が開き、今度は身を整えたA宮と侍女が出てきた

『ごめんなさい…見苦しいものを見せてしまったわ』

「いや…」

「今度は確認してから寝室から出てきてくださいましね」

『リリィ!!』

A宮は頬を膨らませながらルワードと反対側の椅子に座る

『本題に入りましょ…ルワード』

二人の間にある机に二つ紅茶が置かれた

『辛いことを聞くけれど、どうして奴隷になったの？』

「おれは……元は旅人でした。親を失い、帰るところを失い、ただ旅をしていました…その時に」

『ヒューマンショップに連れ去られた？』

「えぇ……まぁ、はい」

話を聞きながらA宮は眉をひそめる
やはり、話すべきでは無かったのだろうか……

『あなた、帰るところが無いって言ったわよね』

「……」

『なら、私のところで働かない？』

ルワードは思わずうつむいていた顔を上げた

「ま、待ってくれ!!おれは奴隷だろう!!?働くって……」

『私の屋敷に奴隷はいらない。使用人だけよ。あなた、馬は触れる？』

「……実家が馬の飼育をしていたが…」

『ならよかったわ!!ねぇ、あなた飼育係になってくれないかしら』

ルワードはわけも分からず、恐る恐る頷いた
それに気を良くしたのかA宮は顔をほころばせた

「奴隷は必要無い……なら何のためにあなたは買っているんだ？」

『助けるため、ただそれだけよ』