一時だけでも幸せを (ページ38)

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痛みページ38

どれくらい時間がたったのだろう
蹴り飛ばされた痛みで立ち上がることはおろか、恐怖で時間感覚が無くなっていく

たんとんと軽い足音がする
徐々に近づいてくる足音はゆっくりとこちらへと近づいてきて、ぴたりと頭上で止まった
恐る恐る頭をあげる
悪い予感はどうして当たりやすいのだろうか
そこにいたのは、あのサングラスの男だった
だけど、恐怖は感じなかった
だって、彼の瞳には今にもこぼれ落ちそうな涙が浮かべられてたから

「申し訳ございません！！」

そう言って、彼は私の前で地面に頭をつける
ガンッと痛そうな音がしたのに、それでも彼は頭をあげようとしない

『あ、えっ……？』

混乱する私をよそに、ぽたりぽたりと地面には水滴が広がっていく
ゆっくりと頭をあげたその顔は、極悪人というよりも迷い子と表した方が正しいような気がした

「触れても、よろしいでしょうか……」

『え、えぇ……』

頷けば、壊れ物に触れるかのように扱われて、体を支えて起き上がらせてくれた
ますます混乱する私に気づいたのか、彼は気恥しそうに目をそらす

「あなた様にとっては、数多いたうちの一人かもしれませんが……それでも、あなた様を忘れた日はありません……｣

『どういう、こと……？』

「A宮。私は、もう一度あなたにおあいしたかった……」

『っ……！！』

「私は、あなた様に救われた奴隷の一人なんですよ」

ハッと目を見開く
サングラスに隠れて気づかなかったが、近づいて見て分かることがある

そうだ
どうして忘れていたのだろう
彼はかつて私が助けた人達のひとりじゃないか

『あなたこそ、どうしてこんなところに？人身売買をさせるために、私はあなたを解放したわけではないのよ……？』

「ええ、分かっております。ですが！……いえ、こんな状況で信じてくれと言うのもおかしな話ですが……私は、人を売り払ったことはありません」