我儘 (ページ28)

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メイクを直してデスクに戻る。

隣の中川くんが私をチラっと確認してメモを渡して来た。
　
　
　
　
　
　
"先程はすみませんでした。
お詫びに今度奢らせて下さい"
　
　
　
達筆な字で書かれたメッセージの下に
"楽しみにしてる"と書いて返した。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
中川「…やった！」
　
　
　
　
わざわざメモにした意味がないくらい大きな声で喜ぶ中川くんに視線が集まる。
　
　
　
　
　
　
　
　
神木「どした～中川？」
　
中川「すみません…」
　
　
　
　
　
　
顔を赤くした彼を見て皆で笑う。
　
ふと吉沢さんの方を見ると、今までに見たことがないくらいに優しい笑顔を向けてくれていた。
　
　
　
　
　
　
　
..
　
　
　
　
　
　
　
『昼間はあんな重たい話してすみません』
　
　
　
　
　
　
就業時間が過ぎ、空っぽになった部署で吉沢さんと二人取り残される事にも大分慣れてきた。
　
　
　
　
　
吉沢「人に話せば楽になることも有りますから」
　
『はい、ありがとうございます。』
　
　
　
　
　
　
　
言葉数は相変わらず少ないが、彼の優しさは今日だけでも充分に伝わった。
　
　
　
　
　
　
『吉沢さんも、抱え込まないでください。私まだまだ働けますから』
　
　
　
吉沢「、ふふっ笑」
　
『えぇ何で笑うんですか？』
　
吉沢「いや…笠松さんって変わってますよね笑」

『え？！どこが？』

吉沢「ん～…こんなに毎日残業続きなのに働き足りないとか言っちゃうとこ、かな」
　
　
　
　
　
『…私、大阪時代に確信したんです。仕事は裏切らないって。
　
偽りの噂話で同僚は離れて行ったけど、その分仕事に打ち込めて、今ここに移動出来て。
　
結果的に仕事が生き甲斐になってました。』
　
　
　
吉沢「じゃあ笠松さんも、仕事人間…ですね笑」

『え？笑』

吉沢「っえ？褒め言葉なんですよね？」

『あはは笑はい、最高の褒め言葉です！』

焦った顔を浮かべていた吉沢さんが、
ホッとしたように微笑んだ。

缶コーヒーの最後の一口を飲み干して再びパソコンと向き合う。

その日はそれ以来二人の会話はなかった。