我儘 (ページ27)

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「どうぞ」と剛さんに手渡された缶コーヒーを片手に部署に戻る。

　
　
　
　
斜め前の吉沢さんと目が合ったので
『どうでした？あの後』と聞くと「ちょっと」と席を立った彼の後ろをついて行く。

　
　
資料室に入り吉沢さんがドアを閉める。
まだ昼休みなので勿論誰もいない。

吉沢「あそこで話したら誰かに聞かれるかもしれないから」

『あぁ確かに…』

　
　
　
　
　
　
　
吉沢「姉だって言ったら何とか信じて貰えた」

『すみません、まさか見られるとは…』

吉沢「会社近いしその可能性もあったのに無用心だった。ごめんな」

　
『私だとバレてなかったのが不幸中の幸いでした。
もし吉沢さんの彼女だなんて噂されたら…』

吉沢「ごめん、俺なんかじゃ嫌だよな笑」

『違うんです、ここでは…

　
　
　
ここではもう…＿＿浮きたくないんです』

　
　
　

..

『大阪時代に中川君と噂があって、それで…』

吉沢「うん」

独り言よりも小さな"嘆き"。
それでも吉沢さんは耳を傾けてくれていた。
　
　
　
　
　
　
『その日を境に、突然女性社員から目の敵にされて、誰も話してくれなくなっちゃって…』
　
　
　
　
　
話しているうちに情景がフラッシュバックして
思い出したくない事まで嫌でも浮かんでしまう。
　
　
悲しみを打ち消す様に苦笑いをすると
吉沢さんは真面目な顔で私を見つめた。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
吉沢「今回は上手く誤魔化したから安心して」
　
　
　
　
　
　
　
　
それだけ告げた彼が私の横を通り過ぎて出口へと向かう。
　
　
「あと」と背中を向けた彼が話し出した。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
吉沢「俺は本人の口から聞いた事以外信じない。
　
特に噂なんて、殆どが他人を陥れるためのフェイクだから。」
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
ガチャンと扉が閉まる音が響く。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
悲しさか、嬉しさか、
　
どちらかわからない涙がとめどなく溢れ出した。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
横を通り過ぎる時にさりげなく彼が渡してくれたハンカチを握りしめる。
　
　
きっと彼は全てを予測して、涙を見ないように部屋を去ってくれたのだろう。