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一ヶ月を過ぎると、本格的に新プロジェクトが始動し気づけば仕事に追われる日々へと変わった。
仕事は楽しかった。
プレッシャーがある分期待されている実感が湧く。
自然と吉沢さんと残業する時間が増えたが、
常にパソコンと睨めっこしている彼と会話する時間は少なかった。
吉沢「ちょっとぐらい休んだら?」
なんて言う吉沢さんの目の下の隈は
日に日にひどくなっている気がする。
『じゃあ…飲みでも行きます?』
少し間を置いて、彼は「いいね」と呟いた。
..
世間は華金で居酒屋は満員だったので、
いつもとは違うお洒落なバーへと向かった。
『こんな所知ってるなんてさすが東京の人』
吉沢「なにそれ笑」
暗めの照明のせいか、彼が目を伏せて笑う姿は
いつもより色っぽく見えた。
吉沢「あのプロジェクトで重要なのは…」
度の強いカクテル、雰囲気のあるバー
隣にはほろ酔いな営業部一の人気者。
普通ならここから恋愛が始まるのだろうが、
彼はいつも通り仕事の話ばかり続けている。
私はそんな彼の話を聞くのが割と好きだった。
『吉沢さんって本当に仕事好きなんですね』
褒め言葉のつもりが一瞬で場の空気が凍るのを感じた。何かマズイことを言ってしまったのかもしれない。
吉沢さんは強張る顔のまま無理矢理口角を上げて
「よく言われます」と言った。
『…すみません』
吉沢「え?」
『あ、いや何か…あんまいい気しなかったかなって』
吉沢「…やっぱり俺、仕事人間なんですかね」
『え?』
吉沢「…すみません、気にしないでください」
はっとしたように彼はそう言ってカクテルに口をつけた。
『私は"仕事人間"って褒め言葉として受けとってますよ』
吉沢「褒め言葉?」
『だって実際に仕事好きだし、生き甲斐であることに間違いはないので。
でも感じ方は人それぞれ違うのに、先程の発言は無神経でしたよね…すみません』
吉沢「いや…そっか、確かに。
仕事人間って最高の褒め言葉ですね、笑」
満面の笑みを見せる吉沢さん。
初めて人の笑顔を眩しいと感じた。
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作者名:sun. | 作成日時:2021年4月19日 17時