我儘 (ページ16)

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菅田「俺、東京行くわ」

澄んだ瞳の奥に宿る野望が
彼の揺るぎ無い決意を表していた。

『…そっか』

それだけ言って彼から目を逸らす。

オレンジ色の道をゆっくり歩く。
あと何度こうして二人で帰れるのだろうか。
　
梅雨の湿気のせいか、じっとりとした汗が首を伝って長い髪の毛が肌に張り付く。
　
　
　
　
　
　
いつもなら繋がれていた手も今日は行き場を失っていた。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
『終わりたくない…』
　
　
　
　
気づいたらそんな事を口走っていた。
　
隣を歩く大将が歩みを止めて私の正面に立つ。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
菅田「俺が東京行くだけや。それ以外何も変わらへん」
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
端正なルックスとフレンドリーな性格。
　
一つ下の私達の学年でさえ、彼を知らない人はいない。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
体育祭で走れば歓声が起きるし、
バレンタインでは何人もの女の子が頬を染めて
彼にチョコレートを渡していたらしい。
　
　
そんな彼の彼女になれるなんて奇跡的な事だ。
　
　
　
　
　
　
　
だけど人間ってのは欲深いもので、
いつしか彼が側にいないと不安になった。
　
　
　
　
　
　
彼は我儘な私を全部受け止めてくれた。
　
　
　
部活でヘトヘトの時も、
テスト前で寝不足の日も、
　
毎日欠かさずに一緒に下校してくれていた。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
『変わらんといて、ずっと』
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
そして私はまた彼に一方的な我儘を押し付ける。
　
　
何も言わずに私の手を包んだ彼の手が少し震えていた。