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瞬きすら、惜しかった。
スポットライトの下、会いたくて堪らなかった彼はそこに立っていた。
たくさんの、仲間と一緒に。
焼き付いていた記憶が塗り替わっていくのを感じていた。
愁いを帯びた、寂しく笑う幼い彼の顔。
それが、ひとつずつ、輝くように楽しそうな笑顔を咲かせる彼に塗り替わっていく。
湿ってふやけた2枚のチケットを、きつく、きつく握りしめた。
叫びだしそうな唇を、噛み締めて。
それでも堰を切ったように止まらない涙がさらに染み込んでいく。
――――みすみくん、
噛み締めた口の中で、何度も呼んだ。
合わせる顔なんてない、それでも、呼ばずにはいられない。
気付かないで―――――気づいて、もう一度だけ。
「っ、」
――――A、
声が、聞こえた。
黄金色の瞳が、私を捉えた気がした、その刹那。
優しくて甘い、彼の声が私を呼んだ気がした。
夢でも、幻でもいい。
そんな気がした。それが全てだった。
「ぁ、あぁ…っ」
手離すなんてできない。
忘れられない。離れられない。
この胸に根付いて、何度も花を咲かせ続けるその想いも、彼自身も。
誰にも渡したくない。
他の誰にも知られたくなかった。
私の、私だけのものだったのに。
それでも、――――それでも。
誰もに知られても、私だけのものでなくなっても。
それが、貴方を諦められる理由にはならない。
割れんばかりの拍手の中、彼は堂々と立っていた。
大輪に咲いた、ダリアの花のように。
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♭れもん - な、なける…すみー… (2020年1月5日 3時) (レス) id: 3207116b3a (このIDを非表示/違反報告)
ちょこしゅー。(プロフ) - 急にこんなもの投稿するなよォ……好きだ……… (2019年12月16日 0時) (レス) id: 4110ba5437 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:一華 顕音 | 作成日時:2019年12月15日 17時