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握りしめたチケットはふやけて皺だらけ。
開演まで残り10分。
私は結局、『MANKAI THEATER』と掲げられた建物の前で立ち止まる。
どんなことだって出来ると思った。
けれど、何故か私の足は踏み出せずにいる。
ただ、怖くなる。
数年会わずにいた彼が、私を覚えていてくれるだろうか。
――――貴方を捨てて、逃げた私なんかを。
さすがに開演10分前のシアター前には観客はいない。
早く、行かないと。行かなくちゃ、いけない。
ねぇ三角くん。
私、どうしたらいいかな。
どんな顔して、あなたに会えばいいかな。
私は貴方に、なんて言えばいいかな。
「あの」
「へ、あ、はい?」
後ろから聞こえた声。
振り返った先には、男の子。
「その公演、もう始まりますよ」
「そ、そうですよね」
「早く行ったほうがいいんじゃないですか」
「そう、なんですよね……」
淡々と言葉を繋げる男の子の手には、同じチケット。
それも、同じくらい皺だらけだった。
「行って」
「え?」
「行けないから、代わりに行って」
「でも、そのチケット…」
「これも、一緒に持って行ってほしいんだ」
押し付けるように手に握らされたチケット。
手放す時の名残惜しそうな目が、しっかりと私を捉える。
「……貴女が、いてよかった」
「どう、いう…」
「ほら早く行って!」
「ちょ、」
少し頬を赤くした男の子は、誤魔化すように私の背を押す。
あんなに重かった足が、嘘のように前に出る。
残り5分。
そろそろ、始まってしまう。
「主役が、凄くかっこいいんだ。
だから――――ちゃんと、見てきてよ」
「――――うん」
寂しそうに振られた手を、
彼に良く似た顔をしっかりと目に焼き付ける。
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♭れもん - な、なける…すみー… (2020年1月5日 3時) (レス) id: 3207116b3a (このIDを非表示/違反報告)
ちょこしゅー。(プロフ) - 急にこんなもの投稿するなよォ……好きだ……… (2019年12月16日 0時) (レス) id: 4110ba5437 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:一華 顕音 | 作成日時:2019年12月15日 17時