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第36話 ページ36

『君のやりたい“松岡A”には、何の価値も魅了も無いよ』



そう言い切って、会議室のドアが閉まった。
周りの視線が私に注がれていた。私は気づいていなかったけれど。
目の前が真っ暗で何も聞こえてなかった。…ホントはその日のことあんまり覚えてないの。
覚えているのはその人の言葉と、私がアイツのヒロインにはなれないって事実だけ。

…そのドラマを見て泣き叫んだわ
私の方があの子より上手かった。私の方がもっとうまくやれた。
私の方が天馬のことわかってるし、私の方が、私が、私なら…

――――悔しくて。
悔しくて。悲しくて。辛くて。痛くて。
見たことない顔が、低くなった声が、大人びた表情が、骨ばった手が、その子に触れるたびに。
自分が制御できなくなるの。涙が止まらなくて。やり場のない感情を消化できなくて。認めたくなくて。


だって私はこう言いたかったの。
10年前のあの日、私は、天馬に。




「『次は、天馬の“ヒロイン”になるね』―――って」




椎名涼のイメージが薄れて、年を重ねて、ちゃんと“女の子”になったら。
誰より先にアイツの隣に並ぶ女の子になりたかった。
アイツの、天馬の一番に、初めてになりたかった。

――――好きで仕方なかった。
誰にも渡したくない。誰にも触れてほしくない。お芝居だとわかってても。
私に触れるまでは、私に、台詞(うそ)でも「好き」と言うまでは。


私が、隣に並んで「好き」と、言うまでは。


だけど私はなれなかった。
これから先もなれないと言われた。
10年も大切にしていた夢が、想いが、壊された。
…違う。壊れたのは私。
他の誰のヒロインになるつもりもなかったし、他の誰にも触れられるつもりがなかった。
そうして、私は怖くなった。
夢も想いも壊されて空っぽになった私の中に、唯一残ったその決意が私を臆病にした。

異性に触れられなくなったのは、触れるのが怖くなったのはそれが原因。
そのまま2年が経って、こんな展開なんて聞いてないでしょ?
どうしていいかわからない。…傷つけたくないのに。
アイツだけは、アイツなら、大丈夫だって思いたかったし――言いたかったのに。



「天馬に、嫌われたく、ない」
「…うん」
「好きなの、好き、なのに、こわ、怖く、て」
「…そう」
「わた、私は、ただ、」
「もういい」




この想いを失くしてしまうのが、怖くて仕方なかった。





「俺の前で強がる必要なんて、ない」

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春野さん(プロフ) - 完結おめでとうございます!タイトルからこんな風に繋がるとは思ってなくて、思わず涙が出ました。本当に素敵な作品だと思います。この作品に惹かれたのがきっかけで天馬最推しになった位(笑)次回作やアナザーストーリー、あれば期待しています、頑張ってください! (2018年8月31日 10時) (レス) id: 43b6e8fc40 (このIDを非表示/違反報告)
ゴム手袋(プロフ) - いいところで更新停止ー!!!めちゃくちゃいいとこでー!!!待ってますー!!!!! (2018年8月7日 10時) (レス) id: 2405ca442d (このIDを非表示/違反報告)
一華 顕音(プロフ) - 狂さん» コメントありがとうございます!嬉しいです…!頑張ります!! (2017年12月30日 16時) (レス) id: f13dd29270 (このIDを非表示/違反報告)
一華 顕音(プロフ) - Mareさん» コメントありがとうございます!更新できるように頑張りますね! (2017年12月30日 16時) (レス) id: f13dd29270 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - とても引き込まれました!頑張ってください! (2017年12月29日 11時) (レス) id: 4e15e8f7b9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:一華 顕音 | 作成日時:2017年12月7日 17時

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